瀬川康男

瀬川康男：日本の児童出版美術を彩った画家

瀬川康男（1932年4月5日-2010年2月18日）は、日本の画家、版画家、そして絵本作家として知られています。愛知県岡崎市に生まれ、幼少期から絵画に親しみ、池大雅や浦上玉堂の作品に魅せられました。国民学校卒業後、旧制中学校を経て、愛知県立岡崎北高等学校に進学。在学中は美術部で洋画、演劇部で舞台美術を手掛け、芸術への道を歩み始めます。

東京芸術大学油画科への入学を目指しましたが、残念ながら不合格。浪人生活を送る中、結核を患い、数年間の療養生活を余儀なくされます。しかし、この間も独学で絵画を続け、創作への情熱を絶やすことはありませんでした。

療養後、再び東京へ。そこで出会ったのが、人形劇団「太郎座」のメンバーであり、絵本作家としても名高い松谷みよ子です。太郎座の活動に携わる中で、瀬川は『信濃の民話』や『秋田の民話』などの挿絵を担当。その才能はすぐに認められ、福音館書店の雑誌「母の友」にも挿絵を提供するようになります。

1960年、福音館書店『こどものとも』53号に掲載された『きつねのよめいり』で、絵本作家としてデビュー。編集者である松居直に見出されたこの作品は、瀬川康男の絵本制作の始まりを告げるものでした。松居は瀬川の才能を見抜きながらも、物語の動きや表現方法に改善点を見出し、瀬川を厳しくも温かく指導しました。その後も、松居は瀬川の才能を更に開花させるべく、中国の民話「つきをいる」を題材にした絵本の制作を依頼するなど、絶えず瀬川をサポートし続けました。

瀬川康男の才能は、福音館書店『こどものとも』での仕事にとどまりません。童心社の『いないいないばあ』シリーズ（1965年～）では、乳幼児向けの絵本に新たな表現方法を取り入れ、大きな成功を収めました。このシリーズで用いた独自の技法は「典具描法」と呼ばれ、彼の画業における重要な要素となりました。

1966年には、不要になったリトグラフのプレス機を譲り受け、独自の技法を開発。それを活かした『ちびくろサンボのぼうけん』などの作品は、彼の表現の幅を広げることとなりました。1966年に発表された『ふしぎなたけのこ』は、ブラチスラヴァ絵本原画展（BIB）でグランプリを受賞。この受賞をきっかけに、さらに多くの仕事の依頼が舞い込み、瀬川は多忙な日々を送ることになります。

ヨーロッパ滞在を経て、1975年からは冨山房の地下スペースをアトリエとし、本格的にリトグラフ制作に取り組み始めます。その後、群馬県北軽井沢、そして長野県青木村に移り住み、自然豊かな環境の中で創作活動を続けます。

1981年には、初の自作絵本『ふたり』を発表。これは、アトリエを提供してくれた冨山房への感謝の気持ちを表した作品でした。また、木下順二による文章と、瀬川自身の綿密な取材に基づいた『絵巻平家物語』は、彼の芸術家としての高い志と、並々ならぬ努力の跡を示す代表作と言えるでしょう。

晩年は体調を崩すこともありましたが、創作活動を続け、『ひな』、『ひなとてんぐ』などの作品を発表。2010年、77歳で逝去しました。

瀬川康男は、数々の賞を受賞し、日本の児童出版美術に多大な貢献を果たしました。彼の作品は、画法の革新性と、物語の奥深さ、そして何よりも子供たちへの深い愛情が感じられる、まさに「現代的な児童出版美術」の代表と言えるでしょう。彼の作品は、これからも多くの子供たちの心に語りかけ続けることでしょう。

主な作品

『きつねのよめいり』（福音館書店）
『つきをいる』（福音館書店）
『ふしぎなたけのこ』（福音館書店）
『いないいないばあ』（童心社）
『ちびくろサンボのぼうけん』（偕成社）
『ふたり』（冨山房）
『ぼうし』（福音館書店）
絵巻平家物語（全9巻）（ほるぷ出版）
『ひな』（童心社）
『ひなとてんぐ』（童心社）

受賞歴

第1回ブラチスラヴァ絵本原画展（BIB）グランプリ
サンケイ児童出版文化賞
絵本にっぽん賞
講談社出版文化賞絵本賞
* 国際アンデルセン賞画家賞次席

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