瀬川直一

瀬川 直一（せがわ なおち）

瀬川直一（せがわ なおち）は、1880年（明治13年）1月10日から1968年（昭和43年）8月21日までを生きた日本の海事功労者です。船長として世界中の海を航海し、後には第二代日本海事検定協会会長として、激動の時代に協会の灯を守り抜きました。

生い立ちと船長としてのキャリア

佐賀県に牧師である父、瀬川浅と母つやの長男として生を受けました。幼少期に長崎市へ移り住み、そこで成長しました。東山学院を経て、1906年（明治39年）に東京商船学校を卒業後、日本郵船に入社。英国への留学経験を持ち、英語に堪能であったことから、その語学力と専門知識を活かして主に欧州航路の乗組員として経験を積みました。やがてその能力が認められ、小樽丸、加賀丸、靖国丸など、主要な航路を担う船の船長を歴任し、卓越した操船技術とリーダーシップを発揮しました。

海事検定協会での活動

1933年（昭和8年）に日本郵船を退職した瀬川は、1935年（昭和10年）に日本海事検定協会に検査員として入職しました。協会では、横浜出張所長や理事といった要職を歴任し、海事検定の分野における専門知識と運営能力を発揮しました。

会長としての困難な舵取り

1944年（昭和19年）3月、彼は初代会長田上郷吉の後任として、第二代日本海事検定協会会長に就任しました。しかし、この時期は太平洋戦争末期にあたり、日本の海運貿易は壊滅状態にありました。終戦後もGHQの占領政策の影響を受け、協会の経営は極めて厳しい状況に置かれました。戦時中には協会の解散論も浮上しましたが、瀬川は将来の海運貿易の再開を見据え、「一度協会を解散すれば、技術者の再結集が困難になるだけでなく、外国の検定機関が進出して日本の地位を奪い、二度と自国の検定機関を再建できなくなるだろう」という強い危機感を抱いていました。

協会の存続と復興

瀬川は、この難局を乗り越えるために不屈の精神で取り組みました。職員の生活を守るため、自身の私財を給与に充てるなど、献身的な努力を惜しみませんでした。また、戦時中の国の管理組織である船舶運営会の傘下に入るなど、あらゆる手段を講じて協会の存続を図りました。その粘り強いリーダーシップと先見の明により、協会は崩壊の危機を脱し、戦後の混乱期を乗り越えることができました。彼の尽力は、戦後日本の海運貿易の再開と復興を支える基盤を維持することに大きく貢献しました。

晩年と功績

1963年（昭和38年）6月、長きにわたる会長職を辞任しました。その海事分野への多大な貢献が認められ、翌1964年（昭和39年）には勲四等瑞宝章を受章しました。さらに、1968年（昭和43年）には海事関係の功労者に贈られる栄誉ある前島賞を受賞しました。

1968年（昭和43年）8月21日、喉頭癌のため、享年88歳でその生涯を閉じました。

瀬川直一は、船長としての経験と、海事検定協会会長としての卓越した経営手腕をもって、日本の海運と貿易を支える重要な役割を果たした人物として、その功績は高く評価されています。

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