火の山―山猿記

火の山―山猿記

『火の山―山猿記』は、著者津島佑子による小説で、日本の歴史と家族の複雑な関係を描いた作品です。本作は、1996年8月号から1997年8月号にかけて講談社の文芸誌『群像』で連載され、1998年6月1日に上下巻として出版されました。その後、2006年には文庫版が刊行され、NHKの連続テレビ小説『純情きらり』の原案にもなっています。

物語の背景

物語は、津島佑子の母方の祖父である石原初太郎をモデルに、富士山の近くに位置する山梨県甲府市の有森家を中心に進行します。激動の時代を生き抜いた有森家の五代にわたる歴史が描かれ、作者自身のルーツが織り込まれています。

あらすじ

物語は、主人公のパトリス・勇平が祖父有森勇太郎の書簡を受け取る場面から始まります。その書簡には、彼の先祖である有森一族の歴史が詳細に記されていました。物語は1868年、甲州南原村に住む17歳の有森小太郎と彼の妻サエの結婚からスタートします。

当初二人は源一郎やエイの子供を持ちます。源一郎は成長して東京の帝国大学に入学し、後に鉱物の研究者として活躍することになります。彼の結婚生活からは、照子、駒子、小太郎、笛子、杏子、桜子、勇太郎といった多くの子孫が誕生します。

源一郎の急死や相次ぐ家族の不幸も描かれ、音楽家を夢見ていた桜子がその夢を諦めざるを得ない時代背景が浮かび上がります。さらに、大東亜戦争での空襲により、甲府の有森家は炎上し、家族はそれぞれの執着を捨てて生き延びることを強いられます。

桜子は東京赤羽に住む松井と新たな生活を始め、笛子は貧しい画家杉冬吾と結婚します。戦後は杏子が反対にあいながらも結婚し、杉冬吾は不幸な道を歩むことになります。こうして、様々な人間模様が絡み合いながら物語は進行し、家族の絆が試される様子が描かれます。

登場人物

本作には、多くの登場人物が登場します。主なキャラクターとして、有森勇太郎（勇一の孫）、有森源一郎（モデルは石原初太郎）、そして彼の家族が物語の中心を成しています。特に、勇太郎の姉である照子や駒子、妹の笛子など、様々な背景を持った女性たちの物語も重要な要素となっています。

受賞歴と影響

本作は、第34回谷崎潤一郎賞と第51回野間文芸賞を受賞し、文学的にも高く評価されています。また、2006年に放送されたNHK連続テレビ小説『純情きらり』を通じて、より多くの人々に感動を与えました。津島の独自の視点を通して描かれる家族の物語は、時代を超えて共感を呼ぶ作品となっています。

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