火星の虹

『火星の虹』（Martian Rainbow）は、物理学者としても知られるアメリカの作家、ロバート・L・フォワードが著したSF長編小説です。

人類が火星への本格的な移住を開始した近未来を舞台に、壮大なスケールで物語が展開されます。

物語は、火星を周回する宇宙船内で、瓜二つの外見を持つアームストロング兄弟の会話から幕を開けます。兄のオーガスタス（ガス）と弟のアレクサンダー（アレックス）は一卵性双生児でありながら、国連火星遠征軍の最高指揮官と司令官という立場で、ある重大な任務を遂行していました。その任務とは、火星上に建設された新生ソヴィエト連邦の基地群を制圧すること。彼らの指揮のもと、この作戦は見事に成功し、基地は占領され、武装解除が行われます。

任務完了後、兄弟の人生は大きく分かれます。兄のガスは火星に残り、設立される火星協会の初代会長として、新たな開拓地の指導者となる道を選びます。一方、地球へ帰還した弟のアレックスは、英雄として熱狂的な歓迎を受け、その名声を瞬く間に高めます。この時、彼に目を付けたのが、影響力を持つ合一教会の主宰者でした。教会の広告塔として利用される中で、アレックスは教団の強大な支持を背景に政治力を蓄え、ついにはアメリカ合衆国の終身大統領という絶大な地位を手に入れます。

そんな中、火星の住民たちは、月面の基地に取り残された人々を救出するため、大規模な船団を派遣します。この救出活動では、従来の手間のかかるエアロック方式ではなく、宇宙船から射出したネットに被救助者がつかまるという、画期的な方法が採用されました。これにより、驚くべき短時間のうちに多くの人々が無事救出され、火星へと迎え入れられます。しかし、この一連の出来事の中で、ガスが深く想いを寄せていた女性が、地球で権力を握ったアレックスの手に落ちてしまいます。

権力の味を知ったアレックスの野心は留まるところを知りません。自身の地位と安全を絶対的なものとするため、彼は地球をわずか一週間で周回する強力な爆弾衛星を開発し、軌道上に投入します。この衛星は、毎週アレックス自身が直接その手でリセット操作を行わない限り爆発するという仕組みになっており、これにより彼は自身の暗殺を試みる者への強力な牽制としました。弟の歪んだ野望が地球全体を脅かす事態に直面したガスは、これを阻止すべく単身での行動を決意します。彼は小惑星に偽装した特殊な小型宇宙船に乗り込み、厳重な警戒網を潜り抜けて地球への潜入を試みます。

数年の月日が流れ、物語の終盤近くになって、アレックスがついに初めて火星の地を踏みます。その際、彼は誰の手助けも借りずに自力で複雑な屋外活動用装備を正確に装着し、同行者の装備にまで注意を払う姿が描かれます。この描写は、彼がかつて火星で生活した経験を持ち、そこで「火星の虹」という現象を目にしたことがあるという過去を示唆しており、読者に深い余韻を残します。

日本語訳版は、山高昭氏の翻訳により、ハヤカワ文庫SF986として1992年9月に刊行されています（ISBN 4-15-010986-9）。

書誌情報

『火星の虹』
山高昭 訳
ハヤカワ文庫 SF986
1992年9月 刊行
* ISBN 4-15-010986-9

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