無人水陸両用車

無人水陸両用車

日本の防衛省が、陸上自衛隊の新たな装備として開発を計画・推進しているのが「無人水陸両用車」です。これは、遠隔操作または自律的な運用が可能な水陸両用型の無人地上車両（UGV）であり、将来の島嶼（とうしょ）防衛や補給任務において重要な役割を担うことが期待されています。

この車両の開発背景には、現在、陸上自衛隊水陸機動団が使用する水陸両用強襲車両AAV7の性能的な課題があります。AAV7は1960年代に設計された古い車両であり、特に南西諸島のようなサンゴ礁が広がる沿岸域における水際での踏破能力や、海上での高速移動能力において、十分な性能を発揮することが難しいとされています。また、敵対勢力による集中攻撃が想定される上陸作戦においては、搭乗員の安全確保も喫緊の課題でした。

こうした状況を踏まえ、防衛装備庁では2017年度から数年間、「将来水陸両用技術の研究」を実施しました。この研究段階では主に有人車両としての可能性が探られ、水際での機動性向上や洋上での迅速な航行、そして乗員の生存性向上などが重要な検討項目とされました。特に、サンゴ礁地形を乗り越える能力の向上が、島嶼奪還作戦における国産水陸両用車の必要性を強く意識させる要因となりました。

これらの研究成果を経て、防衛省は無人水陸両用車の開発に踏み切りました。2024年度予算には、開発試作に関連する経費として約200億円が計上されています。開発される車両は、サンゴ礁のような困難な地形を含む島嶼部の様々な海岸から上陸できる能力を持つことを目指しています。また、搭載される火器についても遠隔操作が可能となる見込みです。

具体的な運用構想としては、敵に占拠された島嶼部に対して、本車両を先行して上陸させ、友軍部隊のための前進拠点を確保する役割や、後続部隊や拠点への補給品・物資を輸送する任務が想定されています。特に、港湾施設などが破壊されたり、利用が制限される状況下でも、海岸から直接、迅速かつ安全に補給を行うことが可能となります。

さらに、防衛省は、将来的に有人型の水陸両用車と無人型の本車両を連携させて運用することを視野に入れています。これにより、有人車両が複数の無人車両を遠隔で統制し、複雑な作戦を実行することが可能となります。例えば、島嶼奪回作戦の初期段階では、無人車両が危険性の高い前衛として突入し、自律的な機動や火力支援を行うことが考えられます。また、補給任務においては、有人車両が指揮を執り、複数の無人車両がコンボイ（車列）を組んで物資を輸送するといった運用も想定されています。

防衛省は、これまでの研究開発を通じて、要求される「機動性能」や「無人化の可能性」などの基本性能が実現可能であることを確認できたため、国内での開発を決断したと説明しています。開発・試作は2024年度から2025年度にかけて行われる予定であり、2028年度を目途に部隊への装備化を目指す方針が示されています。

費用の面では、現時点での見込みとして、量産単価は約8.8億円、装備化されてからのライフサイクルコストは約2822億円と試算されており、今後さらに精査が進められます。開発に関連する総事業費は、後年度の負担額を含めて約211億円が見込まれています。

この無人水陸両用車は、現代の戦術環境、特に島嶼防衛という日本の地理的特性を踏まえた上で、陸上自衛隊の水陸両用作戦能力と後方支援能力を飛躍的に向上させる可能性を秘めた、重要な研究開発プロジェクトと言えます。

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