無勝負 (相撲)

無勝負（むしょうぶ）

無勝負は、相撲の歴史において重要な制度の一つであり、主に江戸時代に存在していました。この制度は、相撲の試合で勝敗が決定できない場合に用いられ、文字通り「勝負無し」とする裁定方法でした。無勝負という言葉自体が示すように、勝者も敗者も存在しない状態を再現したものであり、記録上は引き分けの一種として扱われていました。

無勝負の運用について

現在の大相撲においては、勝負がつかないかたちになった場合でも、必ず行司が“東”か“西”に軍配をあげることが義務付けられています。しかし江戸時代には、行司が勝敗を判断できない場合、無勝負を宣言することが認められていました。その際、行司は「ただいまの勝負、無勝負」と叫び、軍配を真上に上げてから袴の中にしまい込むことで、勝敗をつけないことが可能でした。

この無勝負が示されると、試合の記録にはカタカナで「ム」と表記されました。この表記方法は、他の同様の制度と区別するためのものでした。たとえば、物事に対して異議が申し立てられて勝敗が決まらない『預り』はカタカナで「ア」、水が存在して試合が中断された『引分』は「×」、一方が負傷して続行不可能な『痛み分け』は「△」という表記が用いられました。わかりやすく言えば、それぞれに異なるルールで勝敗を示す方法が存在していたのです。

歴史上の変遷

無勝負という制度は江戸時代の終わりごろには廃止され、その最後の記録として知られているのは、元治2年（1865年）2月場所3日目での「千年川龍藏」と「荒馬大五郎」の対戦です。この試合以降、無勝負という制度は登場しなくなりました。明治時代に入ると、行司は勝負が決まらない場合でも必ずどちらかに軍配をあげることが定められ、無勝負の制度は完全に消滅しました。

ただし、大坂相撲では明治期にも無勝負が存続しており、この制度に関する記録は当時の成績表にも残っています。これは、地域ごとに相撲の慣習が異なるためであり、大坂で無勝負が廃止されたのは大正初期でした。このように、無勝負は時間の経過とともに徐々に消えていった制度の一つであり、相撲のルールがどのように進化してきたのかを垣間見ることができます。

まとめ

無勝負という制度は、相撲の過去における独特な形の勝敗を示す方法として位置づけられており、相撲の成り立ちや文化の変遷を理解する手助けとなります。相撲の進化の過程において、無勝負の廃止は一つの重要な転機を意味しており、その影響は現在の相撲にも色濃く残っています。

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