無有害作用量

無有害作用量（NOAEL）とは？

無有害作用量（むゆうがいさようりょう）、または無毒性量（むどくせいりょう）、英語ではNo Observable Adverse Effect Level（NOAEL）は、生物が何らかの物質に暴露された際に、その物質による悪影響が観察されない最大の量を指します。具体的には、実験動物などの被験体群と対照群を比較し、形態学的変化、生理機能、成長、寿命など、生物学的に、あるいは統計的に有意な悪影響が認められない最大の暴露量を指します。

類似の概念として、No Observable Effect Level（NOEL、無影響量）というものがあります。NOAELとNOELは、厳密には区別される場合があります。NOAELは「悪影響がない」レベルを示すのに対し、NOELは「影響がないわけではないが、悪影響ではない」という、より微妙なニュアンスを含む場合があるからです。しかし、実際には、両用語はほぼ同義として用いられることも多く、明確に区別されないケースも多いです。

毒性学の分野では、NOAELは、物質や因子が生物に悪影響を及ぼすことなく暴露できる最大の濃度や量を示す指標として重要な役割を果たします。NOAELを超える濃度や量になると、悪影響が生じる可能性が高まります。

NOAELの算出とリスクアセスメント

NOAELは、リスクアセスメントにおいて重要な役割を担います。リスクアセスメントでは、物質の暴露量と健康への悪影響との間の関係性を評価する必要がありますが、この関係性を示すのが用量反応関係です。NOAELは、この用量反応関係を確立する上で重要なデータとなります。

例えば、ある薬剤の毒性試験において、ラットに一定期間、様々な用量で薬剤を投与したとします。その結果、ある用量では甲状腺癌の発生率が有意に増加した一方で、それよりも低い用量では有意な増加が認められなかったとします。この場合、有意な増加が認められなかった最大の用量がNOAELとして設定されます。

ヒト等価用量（HED）への換算

動物実験で得られたNOAELをヒトに適用するためには、ヒト等価用量（HED）への換算が必要です。動物種によって薬物動態が異なるため、単純に動物のNOAELをヒトに適用することはできません。HEDへの換算には、動物種間の体重差や薬物代謝の違いなどを考慮した種々の換算係数が用いられます。

例えば、ラットを用いた実験でNOAELが得られた場合、その値をヒト等価用量に換算するために、体重や代謝の違いを考慮した係数で除算することがあります。具体的な係数は、使用する動物種や薬剤によって異なります。

関連概念

NOAEL以外にも、リスクアセスメントや毒性評価において、様々な指標が用いられています。代表的なものとしては以下のものが挙げられます。

耐容上限量（UL）: 摂取しても健康への悪影響がないと認められる最大の摂取量。
最小発育阻止濃度（MIC）: 微生物の生育を阻止するのに必要な薬剤の最小濃度。

これらの指標は、それぞれ異なる文脈で使用されますが、いずれも物質や因子の安全性評価において重要な役割を果たしています。NOAELは、リスクアセスメントや安全性の評価において重要な指標であり、正確な算出と適切な解釈が求められます。様々な要因を考慮し、慎重に評価することが重要です。

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