無理矢理矢倉

無理矢理矢倉：居飛車党への対抗策としての矢倉囲い

無理矢理矢倉、別名ウソ矢倉は、将棋における戦法の一つです。後手番が、相手が居飛車党の場合に、角換わりや飛車先交換型相掛かりといった一般的な展開を回避し、矢倉将棋に持ち込むために用いられます。かつては「二流の戦法」という評価でしたが、近年では再評価され、プロ棋士も用いる戦法となっています。

無理矢理矢倉の概要

一般的な相矢倉は、▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩と進むのが一般的です。しかし、無理矢理矢倉は、これらの手順以外にも、相矢倉となる様々な定跡を包括した総称です。

無理矢理矢倉は、相手が相掛かりや角換わりを志向してきた場合でも、矢倉囲い自体を組むことが可能です。しかし、駒組の制約や、素直に組んでも相手の戦術に不利になるケースが多いため、主導権を得るために、通常とは異なる手順で矢倉を構築します。

例えば、先手が相掛かりを目指す▲2六歩に対して、後手は△3四歩でこれを回避し、▲7六歩、△4四歩～△3二銀～△3三銀と進む展開や、▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩と進み、その後▲4八銀に対して△4二銀～△3三銀～△3二金と矢倉に組む手順などがあります。また、先手が早く▲2五歩と進めてきた場合も、△3三角と上がると同時に△4四歩～△3二銀～△4二角～△3三銀と矢倉を構築する手順も存在します。

プロ棋士による実戦例と分析

田中寅彦著『超過激！トラトラ新戦法』では、無理矢理矢倉の実戦譜が多数掲載されています。同書では、△4四歩に▲2五歩と突かれた場合の矢倉への組み方として、まず3三角と2筋を受け、▲4八銀に対して△3二銀などから飛車を振る通常の指し方とは異なり、△8四歩と居飛車を明示する手順を紹介しています。

また、1977年12月28日の王位戦、升田幸三対田中寅彦戦（当時田中四段）では、△4二銀▲6八玉△8四歩▲7八玉△5四歩▲6八銀△3二金▲7七銀という手順で相矢倉に誘導しています。

『史上最強！ワセダ将棋』では、後手の正しい矢倉の組み方として、2手目を△3四歩とする無理矢理矢倉の手順を推奨しています。これは、2手目を△8四歩とすると、先手に自由に戦いを選択されてしまうためです。後手が矢倉志向の場合、本来は2手目に△8四歩としますが、そうすると先手の▲2六歩に対して相掛かりや角換わりになってしまいます。無理矢理矢倉は、角道を止めて振り飛車を装い、実は矢倉を狙う戦法であることから、その名が付けられました。

先手の対応と戦術

先手の▲2五歩に対しては、急戦向かい飛車や、△3二銀からの反撃など、様々な対応が考えられます。田中寅彦は、自分の土俵で戦うことをモットーとし、銀冠や超急戦向かい飛車での反撃を推奨しています。実戦では、相手の△4四歩を咎めるべく、4手目角腰掛け銀などが多く指されています。

『イメージと読みの将棋観』では、▲2五歩の早仕掛けについて、6名の棋士の意見が紹介されています。相手が居飛車党なら早くに▲2五歩を決め、振り飛車党なら保留するという意見が多いです。谷川浩司と羽生善治の対戦では、羽生先手は全て▲2五歩を決めており、谷川先手は18局中16局で決めています。

2007年の統計では、該当局面347局中、先手が▲2五歩△3三角を決めたのは132局、▲4八銀としたのは214局でした。棋士全体では、▲2五歩を保留する方が多いようです。

無理矢理矢倉側の戦略と相手の反撃

無理矢理矢倉側は、角交換や飛車先交換を避け、矢倉戦に持ち込むことを目指します。相手の反撃としては、速い△4四歩（▲6六歩）の咎めや、急戦矢倉などが挙げられます。先手が▲2五歩△3三角を早くに決めた場合は、▲4八銀よりも▲5六歩を早く突き、▲7八銀～▲3一角から飛車先交換と角交換を目指す指し方もあります。

無理矢理矢倉側は、速い▲5六歩（△5四歩）に対して、超急戦向かい飛車や、菊水矢倉からの盛り上げといった反撃手段を持ちます。また、飛車先交換に対しては、後手陣形から様々な攻めを仕掛けていくことができます。

さらに、無理矢理矢倉側は、向かい飛車以外の振り飛車、雁木囲い、相手も飛車先を保留した陽動振り飛車など、様々な展開も可能です。

無理矢理矢倉