無謀キャプテン

『無謀キャプテン』（むぼうキャプテン）は、漫画家・島本和彦氏によって描かれた日本の漫画作品です。徳間書店発行の『月刊少年キャプテン』誌上にて、1992年8月号から1994年7月号にかけて連載されました。連載当時は少年キャプテンコミックスとして単行本が刊行され、その後2010年にはリュウコミックスより、最終巻に第3部となる書き下ろしを加え、全2巻構成で改めて出版されています。

作品概要

前作『逆境ナイン』の連載を終えた直後、島本氏は複数の連載を抱え、非常に多忙な状態にありました。しかし、担当編集者の熱意に男気を感じた島本氏は、文字通り「無謀」ともいえる状況で本作の連載を引き受けることになります。

タイトなスケジュールの中、作画時間をいかに短縮するかという課題に直面した作者は、「無駄ゴマ」や「無駄ページ」といった実験的な表現技法を意図的に多用しました。これは本来、読みにくさに繋がる可能性を秘めた挑戦でしたが、意外にも、普段の島本漫画に比べて読みやすくなったと作者自身は振り返っています。一方で、これらの技法を用いることは精神的な疲労を伴ったとも語られています。また、作中ではマジックインキが多用されている点も特徴です。

2010年には、徳間書店リュウコミックスが島本氏の過去作品を続々と復刊する中で、『ゲキトウ』、『仮面ボクサー』に続いて本作も再版され、再び多くの読者に届けられました。

あらすじ

物語は、全力学園高等学校に通う2年生の堀田戊傑（ほったぼけつ）の日常から始まります。堀田は同じクラスの生方ひとみに一方的な好意を寄せていましたが、彼女に別に心惹かれる男性がいることを知ると、その相手を激しく殴打してしまいます。

堀田の行動を目撃したひとみは、彼が喧嘩で勝ったとしても交際に応じることはなく、まして相手に怪我をさせた場合は一生彼を憎む、と突きつけます。この言葉によって戦う意義を失ったかに見えた堀田でしたが、彼の信条は「男たるもの自分の墓穴は自分で掘る」こと。この信念に基づき、失敗や破滅が確実と分かっていながらも、彼は相手の顔面に渾身の一撃を叩き込むのでした。このエピソードは、主人公・堀田の特異な生き様を端的に示しています。

作品の構成と展開

本作は大きく分けて複数のパートで構成されています。

第0話: 連載に先駆けて『月刊少年キャプテン』1992年7月号に掲載された予告編的な作品。『逆境ナイン』に続く「男の道三部作」の第二弾として銘打たれましたが、読者からの反応があまり芳しくなかったため、残念ながら三部作構想は実現しませんでした。

第1部: 1992年8月号から1993年8月号にかけて全7話が連載。前作『逆境ナイン』と同様に、やや過剰な熱血表現やギャグ要素を含みつつも、柔道を主題とした比較的オーソドックスなスポーツ漫画として展開します。

島本塾: 1993年1月号から3月号に掲載された、一風変わった企画。「無謀」をテーマにした文芸作品で、新聞形式を取り、四コマ漫画や読者の意見、さらには「教訓」なども盛り込まれました。後の『ザ・勝負!!』にも通じる雰囲気を持っており、島本氏の別作品でお馴染みの炎尾燃や山下といったキャラクターも四コマに登場しています。作者直筆の広告スペースでは、『逆境ナイン』や『ウルトラマンG』関連の書籍情報も掲載されました。

第2部: 1993年9月号から1994年7月号にかけて全7話が連載。第1部での柔道路線から一転し、突如として宇宙人との戦いを描くSFアクションへと様変わりします。この予測不可能な展開も、本作の「無謀」さを象徴する要素と言えるでしょう。

第3部: 2010年にリュウコミックス版の書き下ろしとして、COMICリュウ2010年6月号に掲載。舞台は全力学園から全速力学園に移り、主人公の堀田が校長という立場に。このパートは、後の『安全ティーチャー』の第0話的な側面も持ち合わせています。

主な登場人物

本作には、『逆境ナイン』からのキャラクターも含め、個性豊かな人物が登場します。

堀田戊傑（ほったぼけつ）: 本作の主人公。全力学園2年生。「自ら墓穴を掘る男」「自分の墓穴は自分で掘る」という強烈な信条を持ち、破滅を予期していても敢えて行動に移します。赤いハチマキがトレードマーク。端正な容姿とは裏腹に問題行動が多く、周囲の女子生徒からは敬遠されがちです。
第1部では、教員であるハギワラに見出され柔道部の主将となり、ライバル校・日の出商との対戦に向け特訓に励みます。
第2部では、宇宙人ドラグー星人との戦いに巻き込まれ、グルミー星人との合体を迫られますが拒否。彩子とムーの力を借りて超能力戦士へと覚醒します。
第3部では、全速力学園の校長として登場。成績別のクラス編成を実施したことで、モンスターペアレンツとの新たな戦いに直面します。

校長: 全力学園の校長で、『逆境ナイン』にも登場した人物。本作でもその器の大きさを随所に見せ、日の出商の校長とは親戚関係にあることも明かされます。

ハギワラ・リョウ: 全力学園の教員。『逆境ナイン』からの登場人物です。

石橋（いしばし）: 堀田の同級生で友人。「石橋を叩いて渡る」ような慎重派。物語冒頭では女性を巡って堀田と争いますが、後に堀田の柔道部入りを心配して駆けつけるなど、基本的には良好な関係を築いています。

コン・ジョー: ハギワラによって集められた臨時柔道部員の一人。長髪にサングラス、葉っぱを咥えたニヒルな外見ですが、内面は熱血漢で男気溢れる人物です。
第1部では、バラバラに行動する臨時部員の中で、いち早く堀田の危機に駆けつけます。
第2部では一度堀田を裏切り女子部員と交際しますが、良心の呵責から頭を丸めて再び堀田の仲間となり、宇宙人と共に戦います。
第3部では、モンスターペアレンツの一員として堀田に疑問を投げかける立場となります。

不死身男（ふじみだん）: 臨時柔道部員の一人。「絶対に倒れない男」の異名を持ちます。
第2部では男子柔道部員として、日の出商との再戦に備え鍛錬を積んでいます。臨時部員の中では唯一、堀田を悪く言う描写がありませんでしたが、宇宙人との戦いという状況にはさすがに困惑を隠せませんでした。

大逆天（だいぎゃくてん）: 臨時柔道部員の一人。「最後に必ず勝つ男」を自称します。
第1部では、単独で日の出商柔道部に殴り込みをかけ、結果的に日の出商を刺激し、特訓計画を台無しにするという皮肉な「逆転」を引き起こします。
第2部では、自己保身のために堀田を悪者に仕立て上げますが、不死身に制裁され改心。再び仲間に加わります。グルミー星人と合体して戦うという奇策を提案し実行に移しますが、これも裏目に出て自身を含め3人とも支配されてしまいます。

突破孔（とっぱこう）: 臨時柔道部員の中で唯一の1年生。「勝利の鍵を握る男」。
第1部では、堀田やハギワラから男の道を学び、成長する後輩として描かれます。
第2部では、巨大な目に飛び込んだり、グルミー星人と合体したりと、文字通り突破口を開く活躍を見せます。

日の出商柔道部: 『逆境ナイン』にも登場したライバル校で、全国屈指の強豪。大逆の行動に激怒し、全力学園に乗り込んできます。強面で粗暴な面もありますが、全力学園校長への感謝を示すなど、男気も持ち合わせています。

全力学園男子柔道部: 日の出商から練習試合を申し込まれますが、怪我を恐れて逃走します。

全力学園女子柔道部: 美人揃い。日の出商から逃げた男子部員に見切りをつけた堀田たちが特訓相手に選びますが、その魅力に骨抜きにされてしまいます。柔道の実力は男子部員よりも高く、乗り込んできた日の出商柔道部を「赤い花びら」で撃破します。
第2部では、キャプテンがドラグー星人に取り込まれますが、突破に救出されます。

兆城元将（ちょうじょうげんしょう）/ムー:
第1部では、二股が原因で両方の女性にフラれる謎の男性として登場します。
第2部では、実はロボットであったことが判明し、友情を学ぶために堀田と親友になります。本体はNASAにおり、ロボットは宇宙人調査のために派遣されていた存在でした。

ドラグー星人: 第2部に登場する、全力学園を襲撃した宇宙生物。他の生物を体内に取り込みエネルギーとしますが、取り込まれた生命に危険はないものの、体内は快適で抜け出せなくなります。目玉や触手を持つ怪物の姿をしており、個体ごとに異なる能力を持ちます。

グルミー星人: 第2部に登場する寄生型宇宙人。ドラグー星人よりも人型に近い姿をしています。ドラグー星人を倒した堀田に接近し共闘を持ちかけますが拒否されます。実は彼らこそが真の侵略者であり、ドラグー星人を先兵として送り込み、逃れた者に自分たちとの合体を迫るという周到な計画で地球征服を企んでいました。

彩子（さいこ）: 第2部に登場する女子生徒。ドラグー星人に取り込まれていたところを堀田たちに助けられます。実は超能力者で、堀田が新たな力を得るのに協力しますが、全力学園がグルミー星人に完全に占領された状況に絶望し、自らドラグー星人の体内へと戻ってしまいます。

モンスターペアレンツ: 第3部に登場する、校長となった堀田の新たな敵対勢力。かつての仲間であるコン・ジョーもその一員となっています。

安全大地（あんぜんだいち）: 第3部に登場する教員。「大地に根を生やしたような安全性で子供達を育てる男」と紹介されます。

無謀キャプテン