無題 (尾崎豊のアルバム)

無題

『無題』（むだい）は、日本のシンガーソングライター、尾崎豊のコンピレーション・アルバム。尾崎がプロデビューする前に録音された未発表音源を集めた作品であり、1996年 3月27日にトランスビートよりリリースされました。本作は特定の正式タイトルを持たず、「題が無い、正式タイトルが存在しない」状態であったことから仮称として『無題』と名付けられた経緯を持ちます。プロモーション用の資料には、ファンに向けて「『尾崎のホワイトアルバム』と呼んでください」との一文が添えられていました。

制作背景と録音

本作に収録されている音源は、尾崎が1982年10月11日に参加したCBS・ソニー（現在のソニーミュージックレコーズ）主催のオーディション『CBS SONY Sound Development Audition 1982』（通称SDオーディション）で歌唱された楽曲のデモテープが中心となっています。「ダンスホール」、「町の風景」、「野良犬の道 (Street Blues)」、「もうおまえしか見えない」などが含まれています。これらのデモ音源は、尾崎自身がオーディション応募のために貸しスタジオで録音したとされる、バック演奏の入らないアコースティックギター一本での弾き語りスタイルが主体です。

その後、尾崎のファーストアルバム『十七歳の地図』（1983年）のレコーディングが開始されるにあたり、「もうおまえしか見えない」は収録曲候補に挙げられましたが、最終選考で採用が見送られました。「ダンスホール」もジャクソン・ブラウンの楽曲「ザ・ロード」との類似性が指摘されたため、同様にアルバム収録は見送られました。しかし、「ダンスホール」はその後もライブで頻繁に演奏され、セカンドアルバム『回帰線』（1985年）に収録されることとなります。

収録音源はカセットテープを基にしているため、ノイズが混入するなど、音質面では原音由来の難があります。しかし、数多くの未発表音源集が存在する中でも特異なのは、後から演奏などが加えられておらず、尾崎自身が録音したそのままの音が収められている点です。特に冒頭4曲は、前述の通りオーディション応募用に本人が制作した貴重なものです。

一方で、本作を含むソニーミュージックレコーズ以外のレーベルから発売された未発表音源集については、尾崎のファンクラブ「Edge Of Street」や関連団体からは、著作者の意向に沿わないものであるとして、公式な音源としては認められていない状況です。

リリース、アートワーク、チャート成績

本作は1996年 3月27日にトランスビートからCDフォーマットで発売されました。ジャケットデザインは画家の池田満寿夫が手掛けています。リリース当時、CD購入者向けにタイトル名の応募企画が実施され、最も得票が多かった「もうおまえしか見えない」が事実上のタイトルとして扱われることとなりました。

オリコンアルバムチャートにおいては最高位第5位を記録し、登場週数は8回、累計売上枚数は22.7万枚に達しました。この売上枚数は、尾崎豊のアルバム売上ランキングの中で第11位に位置しています。

プロデューサーの須藤晃は、尾崎が10代のうちに制作した曲が29曲と比較的に少ないのは、彼らが作品に対して非常に厳格であった結果であり、レコード化に値すると判断したのがその数であったと述べています。また、須藤はアルバム『十七歳の地図』以前に多数書き溜められた楽曲の中に、本作収録曲が含まれていながら、尾崎の死後にレコード化されたことに対しては否定的な見解を示しています。

収録曲（一部抜粋）

もうおまえしか見えない
SDオーディション歌唱曲の一つ。後にシングル化されたバージョンとは異なります。
町の風景
初期の楽曲で、『十七歳の地図』収録バージョンとは歌詞が異なります。SDオーディション歌唱曲。
Street Blues
「野良犬の道」というタイトルで録音されたものとされています。
ダンスホール
SDオーディション歌唱曲の一つ。『回帰線』収録バージョンとは歌詞が異なります。

批評

本作の存在意義やサウンドに対する批評家からの評価は、概ね否定的であったと言えます。音楽情報サイト『CDジャーナル』は、本作がデビュー前の自宅や小さなスタジオで尾崎が録音したデモ音源をマスタリングしたものであることに触れ、貴重な音源ではあるものの、企画自体に割り切れない思いを抱かせると指摘しました。音質については「荒々しいギターと汚れなき声」としつつも、終盤の3曲は「生々し過ぎて聴いていられない」と厳しい評価を下しています。

音楽誌『別冊宝島1009 音楽誌が書かないJポップ批評35 尾崎豊 FOREVER YOUNG』において、ライターの宮城正樹は、本作を含む複数の未発表音源集について、あくまでデモテープ段階であり、作品として聴く価値のある完成度を備えているかについては大いに疑問が残るとの見解を示しました。これらの音源集には海賊版ではないかという悪評も聞かれると主張し、「どう見ても『必聴盤』とは言いかねる。お金に余裕があった上でおヒマならどうぞ、としか言いようがない」という極めて辛辣な論評を述べています。

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