焼杉

焼杉とは

焼杉（やきすぎ）とは、杉板の表面を焼き焦がすことで炭素層を形成し、耐久性を高める伝統的な木材加工技術です。この技術によって作られた板は「焼板（やきいた）」とも呼ばれます。主に滋賀県以西の西日本地域で用いられてきた工法であり、外壁の下見板や土中に埋める土留め板などに活用されています。特徴的なのは、その真っ黒な外観です。これは、木材を焼くことで表面に炭素層を作り出すことによって得られるもので、独特の風合いを生み出します。

東日本では、焼杉の技術はあまり知られておらず、同様の仕上げを行う場合には、木材に墨を塗る手法が用いられます。焼杉のように木材を焼き焦がす技術は世界的にも珍しく、なぜ西日本地域に限定してこの技術が発展したのか、その起源や理由はまだ解明されていません。

焼杉の製造方法

焼杉は、独特の製造方法で作られます。かつては、現場の大工が手作業で焼いていましたが、現代ではバーナーを使用する方法も普及しています。

手焼きによる製造方法

伝統的な手焼きによる製造方法は、以下の手順で行われます。

1. 杉板の準備:
3枚の杉板を三角柱状に組み合わせ、濡らした縄でしっかりと縛ります。この時、縄と板の間に楔を差し込んで固定します。
2. 点火:
三角柱の端に、丸めた新聞紙（以前は鉋屑）を詰めて火をつけます。これにより、三角柱の内側が煙突状になり、燃焼が始まります。
3. 燃焼:
三角柱を立てると、内側から燃え始めます。火力が弱い箇所には、鎌などを差し込んで隙間を作り、空気を送り込んで燃焼を促進します。
4. 冷却:
板の表面が十分に焼けたら、三角柱を寝かせて縄を解き、水で冷やして完成です。燃焼時間は約5分程度です。

バーナーによる製造方法

現代では、バーナーで焼いた焼杉も広く流通しています。しかし、手焼きの焼杉と比べると、バーナーで焼いたものは表面の炭化層が浅く、耐久性が劣る傾向があります。手焼きの焼杉が60～70年程度持つとされるのに対し、バーナーで焼いた焼杉は、表面の炭化層が早く剥がれてしまい、長持ちしないことがあります。

現代建築における焼杉の活用

焼杉は、その独特な風合いと耐久性から、現代建築でも注目されています。

藤森照信の建築

建築史家であり建築家でもある藤森照信は、焼杉を積極的に建築に取り入れています。彼の代表作である「養老昆虫館」や「ラムネ温泉館」では、焼杉の持つ独特の素材感を生かしたデザインが特徴です。

隈研吾の建築

建築家の隈研吾も、焼杉を建築に取り入れている一人です。大分県由布市にある「COMICO ART MUSEUM YUFUIN」では、外壁に焼杉が使用され、周辺の自然と調和した美しい景観を作り出しています。

まとめ

焼杉は、古くから西日本で用いられてきた伝統的な木材加工技術であり、その独特の黒い外観と耐久性の高さから、現代建築でも再び注目されています。手焼きによる製造方法とバーナーによる製造方法があり、それぞれに特徴があります。建築家たちは、焼杉の持つ独特の素材感を生かし、現代的な建築デザインに取り入れています。

参考資料

藤森照信 (2009). 藤森照信、素材の旅. 新建築社. pp. 213-225. ISBN 9784786902161
二川幸夫 (2010). 藤森照信読本. エーディーエー・エディタ・トーキョー. ISBN 9784871406703
宮沢洋 (2021). 隈研吾 建築図鑑. 日経BP. pp. 98-101. ISBN 9784296108855

外部リンク

焼杉製作風景（日本語）

もう一度検索