焼締め

焼締め：釉薬を使わない陶器の美

焼締めは、釉薬を使用せずに高温で焼成された陶器です。正式には「締焼き」といい、「やきじめ」とも呼ばれます。その歴史は古く、日本の炻器（せっき）は古墳時代の須恵器を起源とし、焼締め技術を発展させてきました。

焼締めの特徴：土のぬくもりと自然釉の神秘

一般的に陶器は吸水性が高いため、日常生活で使うには釉薬を施すのが一般的です。しかし、焼締めは違います。粘土に含まれる長石が高温で溶け、素地と一体化することで自然と水止め効果が生まれます。この工程は、還元焼成を行うことでより効果的になります。

焼締めは、硬質で吸水性が低いため、釉薬は不要です。古くから急須、茶碗、壺、甕、瓶、土管など、様々な用途で用いられてきました。釉薬を使わないことで、土本来の風合いを生かした、素朴で味わい深い作品が生まれます。

焼成は、登り窯や穴窯を用い、薪や藁を燃料として1100℃～1300℃の高温で行われます。大型の窯では、焼成に2週間もかかる場合があります。焼成中に、窯の中で降灰したものが高温で溶けてガラス質に変化し、自然釉（灰釉）となります。この自然釉は、焼締めの大きな特徴であり、作品に独特の表情を与えます。

焼締めの素地は多孔質で、備前焼の水瓶などは水が腐敗しにくいとされています。ビアカップにビールを注ぐと細かい泡が発生し、口当たりが良くなるとも言われています。ただし、食器として使う際には、土の組成によっては使いにくいものもあります。使用前に十分に水に浸しておくと、作品全体の雰囲気が変わり、焼締めの美しさがより一層引き立ちます。

なお、施釉陶器の素焼き工程を焼締めと呼ぶのは間違いです。素焼きは800℃～900℃で行われ、焼締めとは異なる工程です。近年では、電気窯を用いて還元焼成を行う方法も普及しています。

自然釉：偶然が生み出す、唯一無二の表情

自然釉は、窯の中での器物の位置、火の流れ、天候、燃料の種類など、様々な要因によってその付き方が変化します。そのため、同じ窯で焼かれた作品でも、それぞれに異なる表情を見せます。色彩も、窯の種類や大きさ、焼成方法によって異なり、深い緑色や瑠璃色、真っ黒など、様々なバリエーションがあります。

比較的厚く降灰した部分には貫入（釉薬のひび割れ）が入ることがあり、作品にさらに奥行きを与えます。焼締めは釉薬で色付けや模様付けができないため、作者は土の種類や産地を変えることで、作品の色合いに変化をつけます。しかし、自然釉の付着は偶然の産物であるため、作者自身もその結果を予測することは難しいのです。

焼締めの産地と歴史

備前焼、伊賀焼、信楽焼、丹波焼、常滑焼など、日本各地で伝統的な焼締めが作られています。海外製の南蛮焼なども、この製法で作られています。これらの産地では、長い歴史の中で培われた技術と、地域独特の土壌が、それぞれの焼締めに個性を与えています。

焼締めは、土と火の芸術。その素朴で力強い美しさは、人々の心を魅了し続けています。

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