煙草 (小説)

短編小説『煙草』

概要

三島由紀夫による短編小説『煙草』は、彼が戦後に執筆した作品群の中でも特に古いものの一つです。この作品は、彼の学び舎である学習院中等科の思い出を基にした感覚的な記憶を利用し、その中で展開される初恋と喫煙体験を描いています。

発表経過

初出は1946年の6月、川端康成の推薦を受けて雑誌『人間』に掲載されました。この作品は同年に予定されていた短編集には収録されず、翌年の1947年に桃蹊書房から刊行された『年刊創作傑作集第一號』に収められ、その後、1948年には鎌倉文庫から『夜の仕度』として発刊されました。また、2016年には新潮文庫から文庫版としても再出版され、英語に翻訳されています。これらの過程を経て、作品は三島の重要な処女作の一つと見なされました。

内容

物語の主人公である「私」は華族学校の中等科に進級したばかりの少年「長崎」です。彼は一般の生徒とは異なり、スポーツを忌み嫌い、特に運動部からの誘いをあえて断ります。彼の時間は、学校を囲む起伏のある森を一人歩くことで彩られ、そこには静寂で美しい瞬間が広がっています。

ある日、「私」は森の中で禁じられた煙草を吸おうとする上級生二人に出くわします。彼らは少し戸惑いつつも、「私」を仲間に引き入れ、初めての煙草を自己防衛しつつ吸わせました。この出来事を通じて、長崎はそれまで軽蔑していたスポーツに対する対抗心が実はひとつの羨望であることに気づきます。この初めての体験は彼に密かな自信を与え、彼は学校生活の中でより活発になっていくのです。

冬が近づく頃、「私」は文芸部の活動に打ち込みながら、ある日、ラグビー部の上級生「伊村」と再会します。文芸部の部室から出た時、伊村に再び会えたことに喜びを覚え、彼は煙草を吸うことを強く望むようになります。伊村との交流が進むにつれて、彼を見つめる目が「私」に様々な感情を呼び起こし、思わぬ方向に心が動いていくのです。

物語のクライマックスは、文芸部の部室内でのやり取りにあります。「私」が伊村に煙草を求めるシーンでは、周囲の空気が緊迫したものに変わり、伊村が煙草を渡すことで、「私」の心の揺らぎを象徴的に表現しています。この瞬間は、ただの喫煙行為を超え、より深い感情の葛藤や過渡期の象徴と捉えられるでしょう。

結論

『煙草』は、三島由紀夫の文学における重要な作品であり、個人の成長を描写する通じて、同性愛的な要素や青年の葛藤を織り交ぜています。また、当時の文壇において川端康成の推薦を受けて発表されたことが、後の三島の作家としての評価にも繋がりました。この作品は、彼の初期文芸活動を象徴するものとして、後世まで影響を与え続けることでしょう。

もう一度検索