鎌倉文庫

鎌倉文庫の歴史

鎌倉文庫（かまくらぶんこ）は、戦中から戦後にかけて日本の文芸界に大きな影響を与えた貸本屋および文芸出版社です。設立は1945年（昭和20年）5月1日、神奈川県鎌倉市で、戦争が引き起こした出版の困難な状況に対応するため、鎌倉に住む文士たちによって開始されました。彼らは自らの蔵書から数千冊を集め、鎌倉八幡宮の近くで貸本屋を運営しました。

設立の背景

当時、多くの文学者が生活難に苦しんでいました。戦争による影響で、彼らの生活はますます困窮し、出版業界も混乱を極めていました。このため、鎌倉の文士たちは協力し合い、貸本屋の設立を決意します。その発案者には有名な作家の久米正雄や川端康成などが名を連ね、協力者たちも著名な文士ぞろいでした。このような背景のもと、彼らは活字に渇望していた人々に文学を提供する場を設けることに成功しました。

戦後の発展

終戦を迎えた1945年9月、鎌倉文庫は正式に出版社としての活動を開始しました。新たに設立された株式会社鎌倉文庫の初代社長には久米正雄が就任し、大同製紙の社長橋本作雄が会長に就任しました。この頃、鎌倉文庫は文芸雑誌『人間』を1945年12月に創刊し、編集長には木村徳三が就任しました。この雑誌は売れ行きが好調で、文士たちの出版商法として多くの注目を集めました。

1946年、この新たな出版社は次第に女性雑誌『婦人文庫』や一般社会人向けの『社会』、ヨーロッパ文学を紹介する『ヨーロッパ』などを発刊し、多様な読者層にアプローチしました。その一環として、当時まだ無名だった三島由紀夫の短篇も掲載されるなど、文学界への影響力を強めていきました。出版の場を広げるとともに、貸本業も続け、東京日本橋にも新たな店舗を開設しました。

経営の波乱

しかし、経営状況は順調ではありませんでした。1947年には経済面の厳しさが影響し、大きな困難に直面しました。大同製紙が資本を引き揚げ、一方で紙の統制が始まると、出版業界全体が打撃を受けました。1950年には経営の混乱が続き、最終的に鎌倉文庫は倒産に至ります。倒産後、唯一の売れ筋であった『人間』誌は、目黒書店に売却されることとなり、在庫は市中に流通しました。

婦人文庫の創刊と終焉

鎌倉文庫が発行した女性雑誌『婦人文庫』は、1946年5月に創刊されました。この雑誌は、女性が活躍する時代背景の中で、文学を通じて女性たちの声を届けることを目指しました。初代編集長には吉屋信子が就任し、多くの著名女性作家が参加しましたが、雑誌は数年後には姿を消してしまいました。1949年には発行を休止し、最終号を発表して終わりました。

結論

鎌倉文庫は、その短い歴史の中で日本の文学界に多大な貢献を果たしましたが、経済的な理由や競争の激化により、倒産という結果を迎えることとなりました。その影響は現在まで続いており、語り継がれる文士たちの挑戦の足跡として、多くの人々に記憶されています。

もう一度検索