照射線量

照射線量（exposure）は、X線やγ線が乾燥空気中で起こす電離作用の度合いを測る量として定義されます。これは、放射線が物質に与える影響を定量的に評価する上で、原因となる放射線の強さを表す基本的な指標です。

定義の変遷

照射線量は、自由空気電離箱を用いて測定される量として、1928年に国際的な共通単位として導入されました。当初は、測定可能な物理量に基づいて定義されていましたが、その後、より普遍的な定義へと改められました。

現在の定義では、X線やγ線が「仮想的に」乾燥空気に作用した際に生じる二次電子に着目します。これらの二次電子が、さらに「仮想的に」乾燥空気で満たされた空間を通過する際に生成する電離電荷量と、X線やγ線が作用した仮想的な空気の質量との比を照射線量とします。この定義の重要な点は、1962年以降、X線やγ線と空気の仮想的な相互作用を基にしているため、測定場所が空気中である必要がないという点です。つまり、水中や真空中といった異なる環境下でも、照射線量を定義できるということです。また、この定義は、線量を定める場所で二次電子平衡が成立するか否かにも影響されないという利点があります。

単位

照射線量の単位には、国際単位系（SI）と非SI単位があります。

SI単位: クーロン毎キログラム（C/kg）が用いられます。これは、1キログラムの空気中で生成される電離電荷量をクーロン単位で表したものです。
非SI単位: CGS静電単位系では、レントゲン（R）が用いられます。1レントゲンは、esu/cm3（静電単位毎立方センチメートル）に等しく、歴史的に広く用いられてきた単位です。

これらの単位間の換算関係は以下の通りです。


1 R = 2.58 × 10⁻⁴ C/kg（正確な値）
1 C/kg ≈ 3875.969 R


他の物理量との関係

近年、照射線量の代わりに、空気衝突カーマ（collision air kerma）が用いられることが増えています。空気衝突カーマは、単位グレイ（Gy）で表され、1 Gy は 1 J/kg（ジュール毎キログラム）です。

空気衝突カーマは、厳密には照射線量の電離電荷密度をエネルギー密度に換算したものではありませんが、エネルギーが数keV未満や数MeV以上のX線を除き、両者の数値的な差異は1%未満と非常に小さいため、実用上はほぼ同一視できます。

また、「（空中）空気吸収線量（absorbed dose in free air）」という用語も用いられることがありますが、空気中では二次電子平衡の状態が確定しないため、照射線量や空気衝突カーマが同じ値をとる場所でも、空気の吸収線量は様々な値をとり得ます。したがって、この用語の使用には注意が必要です。

まとめ

照射線量は、放射線による電離作用を定量的に評価するための重要な概念であり、その定義は時代とともに変化してきました。現在の定義は、より普遍的で、様々な環境下での放射線影響評価を可能にするものです。単位としてはC/kgとRが用いられ、近年では空気衝突カーマとの関連も重要になっています。これらの知識は、放射線を利用する様々な分野において不可欠です。

もう一度検索