煮売屋

煮売屋（にうりや）は、江戸時代に存在した、煮魚、煮豆、煮染めなど様々な煮物を専門に扱う店、またはそのような料理を提供する飲食店を指します。

江戸における煮売屋の隆盛

江戸時代には、焼き餅や焼き団子、焼き魚といった焼き物を売る行為を「焼売（やきうり）」、煮物を売る行為を「煮売（にうり）」と呼びました。この「煮売」を行う店が煮売屋として広く知られるようになります。

煮売屋は、振売り、屋台、店舗など、多様な形態で営業していました。

明暦の大火（1657年）後、江戸の復興事業や都市改造のために地方から多くの人夫が集まりました。これらの男性労働者たちは、昼間は肉体労働に従事し、夜になると煮売屋に集まることが多かったようです。煮売屋は、彼らにとって手軽に食事を済ませられる場所であり、社交の場でもありました。しかし、人が集まる場所であるため、時には喧嘩などのトラブルも発生しました。

また、江戸は火災が頻発する都市であり、火を扱う煮売屋は火災の原因となる可能性がありました。そのため、寛文元年（1661年）から寛政11年（1799年）にかけて、煮売屋の夜間営業を禁じる命令が度々出されました。しかし、単身の男性が多い江戸において、煮売屋の需要は高く、店舗数は増え続けました。

江戸の市井風俗を描いた『飛鳥川』（柴村盛方著、1810年）には、煮売屋の様子が以下のように記されています。

煮肴など煮物を一品あたり四文均一で販売する店が両国一面に広がり、さらに柳原、芝まで続いていて、両国には煮売茶屋（煮売屋と茶屋を兼業する店）が数え切れないほどあった。「煮しめ菓子」はおそらく煮しめの中でも特に甘く煮たもの。

煮売屋の種類

煮売屋には、様々な形態の店が存在しました。

煮売茶屋: 茶屋と煮売屋を兼業する店。
煮売酒屋: 酒を販売し、その肴として煮物を提供する店。この形態から、後の居酒屋が派生したと言われています。
菜屋、惣菜屋、煮豆屋: 煮しめや煮豆などを専門に販売する店。夕食のおかずとして煮売屋の惣菜を求める人々も多く、需要が高かったようです。

煮売屋は、現代のファーストフードやデリカテッセンのような存在として、江戸の人々の食生活を支えていました。

参考文献

松下幸子「煮売屋」（『日本歴史大事典 3』小学館、2001年） ISBN 978-4-09-523003-0

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