熊本市電川尻線

川尻線（かわしりせん）は、かつて熊本県熊本市内に敷設されていた、熊本市交通局（熊本市電）が運営していた軌道路線です。市の中心部に位置した河原町停留場を起点とし、南部の川尻町停留場までを結んでいましたが、1965年（昭和40年）2月21日をもって廃止されました。

この路線の歴史は、熊本電気軌道が、同社が経営を引き継いだ百貫線の赤字を補填する新たな収益源として敷設を計画したことに始まります。当初、熊本電気軌道は現在の八代市まで路線を延伸する ambitious な構想を抱き、そのための特許申請を行いました。しかし、当時既に主要幹線であった国鉄鹿児島本線との競合が懸念されたため、路線の認可は川尻までの区間に限定されることとなりました。

川尻線の建設は段階的に進められました。まず、1924年（大正13年）10月10日に熊本市河原町から飽田郡川尻町までの軌道敷設が特許されました。その後、1926年（大正15年）10月12日に世安橋と岡町の間が開業し、これを皮切りに順次延伸が行われました。翌1927年（昭和2年）には、4月19日に岡町・川尻町間、4月27日に泰平橋・世安橋間、5月25日に迎町・泰平橋間が開業し、同年9月8日の河原町・迎町間の開業をもって、ようやく全線が開通しました。

開業当初の川尻線は専用軌道上を走行しており、6分間隔という比較的高い頻度で列車が運行されていました。これは、地域の主要な公共交通機関として重要な役割を担っていたことを示しています。

太平洋戦争終結から間もない1945年（昭和20年）12月1日、川尻線は同時期に熊本市内に存在した百貫線と共に熊本市に買収されることとなり、熊本市交通局の路線となりました。市営化された後も運行は継続されましたが、路線の運用形態には変化が生じました。1959年（昭和34年）4月1日からは、市の中心部へのアクセス向上を図るため、川尻線から幹線を経由して辛島町停留場方面への直通運転が開始されました。この直通運転の開始に伴い、それまで起終点だった河原町停留場は通過扱いとなり、実質的な起点が変更された形となりました。

しかし、1960年代に入ると、全国的にモータリゼーションが急速に進展し、路面電車の利用者は減少傾向を示しました。こうした社会情勢の変化を受け、川尻線もその役割を終えることとなり、市営化から約20年が経過した1965年（昭和40年）2月21日、河原町から川尻町までの全線が廃止されました。

川尻線の歴史の中では、全線廃止よりも以前に姿を消した停留場も存在します。具体的には、1926年10月26日に開業した上高江停留場、1931年以前に開業したとされる下高江停留場、そして1927年4月19日に開業した田町停留場が挙げられますが、これらの停留場が正確にいつ廃止されたのかは明確な資料が残されていないようです。

なお、関連情報として、かつて河内村仏崎から小島町下松尾にかけての区間に未成線計画が存在したことが知られていますが、この計画と川尻線との直接的な関連性については定かではありません。

川尻線は、短い期間ではありましたが、地域の重要な交通網として機能し、熊本市の交通史において一時代を担った路線として記憶されています。

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