熊本県立熊本中学校 (旧制)

旧制熊本県立熊本中学校について

旧制熊本県立熊本中学校は、かつて熊本県熊本市に存在した県立旧制中学校です。この名称を持つ学校は2校存在しますが、本稿では1879年から1888年にかけて存在した学校について詳述します。

熊本県立熊本中学校（1879年 - 1888年）

この学校は、1879年（明治12年）9月2日に、熊本市城東町の熊本県師範学校内に併設される形で復興しました。前身は1876年（明治9年）に熊本城内に設置された県立千葉中学校でしたが、西南戦争によって焼失・閉校していました。

熊本中学校は、天草、玉名、菊池、人吉に分校を設置しましたが、財政難のため1884年（明治17年）までに全ての分校が廃止されました。1887年（明治20年）には熊本県尋常中学校と改称しましたが、翌年には廃校となりました。

廃校までの経緯

同校は、前身の千葉中学校時代から、改革派「実学党」の子弟が多く入学しており、保守派の「学校党」（後の紫溟会）から反発を受けていました。当時の熊本県では、欧米の自由主義的教育が行われていましたが、これが欧化主義を批判する紫溟会の反発をさらに強めることになりました。学校は、県会の紫溟会と九州改進党（実学党系の民権派）の対立に巻き込まれ、1888年（明治21年）の県会で、多数派を占める紫溟会が、熊本県尋常中学校の翌年度予算を否決しました。この結果、熊本県尋常中学校は1888年（明治21年）3月31日をもって廃校となり、在籍していた生徒は全て退学し、県立中学校は一時的に消滅しました。

当時、全国的に財政難による県立中学校の予算削減や廃校が相次いでいました。

その後

紫溟会は、熊本中学校設立の約3ヶ月後の1879年（明治12年）12月に、独自の教育機関として同心学舎を設立しました。この同心学舎は1882年（明治15年）に濟々黌と改称し、現在の熊本県立済々黌高等学校の母体となります。設立当初の濟々黌は私立でしたが、県立同様の扱いを受けていました。1901年（明治34年）6月には、熊本県立中学済々黌と改称し、名実ともに県立中学校となりました。

この県立中学校の廃止によって、熊本県の教育の主導権は紫溟会（熊本国権党）によって掌握され、以後、中等教育機関の役割は主に濟々黌が担うことになりました。

もう一つの熊本県立熊本中学校

なお、1900年（明治33年）に設置された熊本県中学第二済々黌は、後に「熊本県立熊本中学校」に改称し、現在の熊本県立熊本高等学校へと変遷していきます。しかし、濟々黌の流れを汲む系統から考えると、この廃止された熊本中学校とは直接的な関係性はありません。

まとめ

旧制熊本県立熊本中学校は、短期間で廃校となったものの、当時の熊本県の政治状況や教育方針を反映する重要な存在でした。その廃校は、県内における教育勢力の変遷を象徴する出来事であり、後の熊本県の中等教育に大きな影響を与えたと言えるでしょう。


参考文献

* 熊本県教育会編『熊本県教育史』臨川書店、1975年

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