実学党

実学党の概要とその意義

実学党（じつがくとう）は、幕末の熊本藩で活動した改革を志向する藩士たちの集団であり、長岡是容や横井小楠、元田永孚などがその主要メンバーとして知られています。この集団は、「肥後実学党」や「熊本実学党」とも呼ばれ、藩政の改革を訴え、実学の重要性を広める活動を行いました。

発祥と背景

実学党の起源は、天保14年（1843年）に長岡や横井らが藩校時習館での学びに満足できず、独自に勉強会を開いたことにさかのぼります。彼らは大塚退野の学風を尊び、朝鮮の儒学者李滉を範として、治国安民や民生の向上を学問の本質と考えていました。実学を通じて内面を高め、真実を見出すことを目指したのです。

このような背景から「実学党」という名称は、当初は批判的な意味合いが込められていましたが、彼らはこれを「内実の学問」と解釈し、誇りを持って名乗るようになりました。

権力闘争と対立

実学党と学校党の間には激しい争いや権力闘争がありました。学校党は時習館の支持基盤を持ち、一時は筆頭家老松井章之を中心に長岡是容との対立が深まり、弘化4年（1847年）には学校党が勝利を収めました。しかし、勤皇党という新たな勢力が台頭するにつれて、藩内の対立は複雑化しました。

反主流派となった実学党と勤皇党は共闘し、学校党に対抗しました。しかし、安政2年（1855年）に横井小楠が開国論を支持するようになり、長岡是容との間に亀裂が生じました。こうした経緯の中で、実学党内でも坪井派と沼山津派の二つの派閥に分かれました。

明治維新とその後

明治維新の時期には、旧来の学校党と勤皇党の対立によって、熊本藩は立場を明確にすることができず、双方とも影響力を失い、実学党が新たな力を持つようになりました。明治3年（1870年）には細川護久が藩知事に就任し、実学党は政権を握ることとなります。

その後、実学党は進歩的な藩政改革を推進し、廃藩置県後も新たな熊本県の要職において影響力を持ち続けました。しかし、あまりにも革新的な政策が求められたため、明治政府から警戒され、明治6年（1873年）には県政から排除されてしまいました。

実学党の遺産

実学党出身者はその後も地域社会や政治において活躍を続け、一部は民権党として学校党と対立し、明治時代の熊本政界における重要な潮流を形成しました。また、元田永孚は明治天皇の侍読として重用され、実学党の理念は新しい時代の政治に引き継がれていくこととなります。

実学党は単なる歴史的な集団ではなく、熊本藩の将来に大きな影響を与えた実践的な学問の重要性を訴えた一団であり、その活動は今なお評価されています。

参考文献

• - 山口宗之「実学党」（『国史大辞典 15』（吉川弘文館、1996年））
• - 鎌田浩「実学党」（『熊本県大百科事典』（熊本日日新聞、1982年））

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