熱田空襲

熱田空襲は、第二次世界大戦末期の1945年（昭和20年）6月9日、愛知県名古屋市熱田区で行われたアメリカ軍による空襲です。名古屋大空襲の一環として位置づけられ、主に当時の軍需産業の中核を担っていた愛知時計電機船方工場や愛知航空機（現在の愛知機械工業）の工場などが狙われました。この攻撃は、旧日本軍の予測を裏切る形での奇襲となり、多くの尊い命が失われる結果となりました。

当時のアメリカ軍爆撃機は、マリアナ諸島から日本本土を目指す際、大阪や名古屋といった大都市を直接避けて琵琶湖方面へと飛行するルートを多用していました。琵琶湖上空に達した後、目的地の方向へと進路を変更するのが常でした。1945年6月9日、アメリカ軍の約130機からなる爆撃機編隊が琵琶湖方面へ向かうのが確認され、旧日本軍東海軍管区は直ちに空襲警報を発令しました。しかし、編隊がその後西南方向、すなわち大阪方面へと進んでいくのを見て、日本軍は名古屋への危険はないと判断し、空襲警報を解除しました。

ところが、この約130機の編隊のうち、約40機が突如として東南方向、すなわち名古屋方面へと進路を変えたのです。この日は気象条件にも恵まれており、爆撃機は名古屋市熱田区へと一気に急襲しました。空襲警報が解除されてからおよそ1時間後の午前9時30分頃、主に船方町（現在の熱田区一番町周辺。交差点名として名残があります）や白鳥橋周辺に位置していた、流星などの軍用機を製造していた愛知航空機工場や住友金属工業名古屋工場などが爆撃の対象となりました。

予想外の奇襲攻撃であったため、旧日本軍の防衛体制は対応が遅れました。また、一度解除された空襲警報に安堵し、警戒を解いていた多くの人々は、突然の爆撃から逃げ遅れることとなりました。

この空襲により、標的となった工場で働いていた従業員や、学徒勤労動員として動員されていた学生など、約2万2000名のうち1045名が命を落とし、約3000名が重軽傷を負いました。工場の周辺に住む住民も数十名が犠牲となりました。犠牲者の総数については諸説あり、工場関係者と周辺住民を合わせて約2000人が死亡、約2000人が重軽傷を負ったとする説もあります。また、人的被害だけでなく、当時国宝に指定されていた熱田神宮をはじめとする貴重な文化財も大きな被害を受けました。

熱田空襲では多くの動員学徒が犠牲となったこともあり、彼らを追悼し、平和への願いを込めた慰霊の取り組みが行われています。かつて愛知航空機はこの会社から独立しましたが、現在も愛知時計電機本社工場の正門前には、犠牲者を悼む慰霊地蔵尊が建立されています。また、本社工場近くの堀川沿いの小道には、当時の堀川護岸壁の一部が、爆撃による破壊の跡を生々しく残したまま保存されており、傍らには慰霊碑が建てられています。

空襲が発生した6月9日には、毎年、愛知時計電機によって犠牲者のための慰霊祭が厳かに営まれ、戦争の悲劇と平和の尊さが語り継がれています。

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