燃ゆる頬

堀辰雄によって書かれた短編小説『燃ゆる頬』（もゆるほお）は、少年期特有の繊細な感情の動きと、過去の出来事に対する遅れてくる後悔の念を主題とした作品です。

物語は、高等学校の寄宿舎で生活する17歳の主人公「私」の視点から展開されます。そこで「私」は、同級生である三枝と出会います。三枝は病弱でありながら、ばら色の頬と静脈が透けて見えるほどの美しい皮膚を持っていました。

寄宿舎での共同生活の中で、「私」と三枝は急速に親密な関係を築いていきます。二人の間には、単なる級友という枠を超えた特別な絆が生まれます。その関係性は、三枝が患う脊椎カリエスの痕に触れるといった、身体的な触れ合いを含む無邪気なじゃれ合いを通して、より深いものとなっていきます。

しかし、夏休みに二人で訪れた海辺への旅が、彼らの関係に微妙な変化をもたらす転機となります。旅先の海岸で、「私」は声のしゃがれた地元の漁師の娘に心を惹かれます。娘に声をかけることに気後れする「私」を横目に、三枝は堂々とその娘に話しかけます。

この出来事をきっかけに、「私」の中で三枝の存在はそれまでの特別な友人から一変し、恋愛における競争相手、すなわち恋敵として認識されるようになります。

夏休みが明けて学校に戻ると、三枝は既に別の土地へ転居していました。そして、冬のある日、「私」は校内の掲示板に三枝の訃報が張り出されているのを目にします。しかし、当時の「私」は三枝の死を知っても、特別な感情を抱くことはなく、ただぼんやりと掲示を見つめるだけでした。

数年の歳月が流れた後、「私」は肺結核と診断され、療養所での生活を送ることになります。療養所で、「私」は一人の少年に出会います。その少年は15、16歳くらいで、回復期にある脊椎カリエスの患者でした。どこか三枝を思わせるその少年に、「私」は過去の記憶を呼び覚まされます。

そして、ある朝、少年の背中にある脊椎カリエス患者特有の背骨の突出部を見た瞬間、「私」の脳裏に三枝の姿が鮮烈にフラッシュバックします。この時、「私」は三枝との関係、そして過去の自身の行動について、「取り返しのつかないことをしてしまった」という深い後悔と後ろめたさを初めて感じるのです。

作中に登場する主な人物は、17歳で寄宿舎生活を送る主人公「私」、病弱で脊椎カリエスを患う同級生の三枝（さいぐさ）、そして主人公の先輩であり同じ寄宿舎に暮らす魚住（うおずみ）です。

本作は、少年たちが学ぶギムナジウムという環境や、特定の感覚に焦点を当てた作品として論じられることもあります。

関連書籍としては、新潮文庫から刊行されている『燃ゆる頬・聖家族』の他、小野塚カホリによる漫画版、朗読CD付版などがあります。また、青空文庫でも公開されており、オンラインで本作を読むことが可能です。

この小説は、少年期の脆く揺れ動く感情と、時間をおいて初めて自覚される後悔という、人間の内面に深く根差したテーマを描き出しています。

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