堀辰雄

堀辰雄

生涯

堀辰雄は、1904年（明治37年）12月28日に東京で生まれました。父は広島藩の士族で、東京地方裁判所の書記を務めていました。母は東京の町家の娘でした。辰雄という名前は、辰年生まれにちなんでつけられました。しかし、実父には既に妻がいたため、母は辰雄を連れて家を出て、その後、別の男性と再婚しました。辰雄は養父を実の父と信じて育ちましたが、実父は辰雄が幼い頃に亡くなりました。

文学への目覚め

中学校時代は数学を愛し、数学者を夢見ていましたが、親友の神西清によって文学の世界へと導かれます。一高時代には、小林秀雄、深田久弥らと出会い、文学への関心を深めました。また、この頃に訪れた避暑地の体験が、後の作品に影響を与えています。1923年（大正12年）には、関東大震災で母を失うという悲劇に見舞われ、肋膜炎を患い休学します。この一連の経験は、堀の文学観を形成する上で大きな影響を与えました。

作家活動

1925年（大正14年）に東京帝国大学文学部国文科へ進学し、本格的に創作活動を始めました。同人誌「山繭」や「驢馬」に参加し、中野重治、窪川鶴次郎らと交流を深めます。また、芥川龍之介、室生犀星らとも親交があり、軽井沢での滞在を共にしました。1927年（昭和2年）には、芥川の自殺に大きな衝撃を受け、その全集の編纂に携わります。初期の作品には、モダニズムの影響が見られます。1930年（昭和5年）には、芥川の死をモチーフにした「聖家族」を発表し、文壇で高い評価を受けました。

矢野綾子との出会いと死

療養生活を送る中で、堀はマルセル・プルーストなどのヨーロッパ文学に触れ、子供時代への回帰や母の不在に対する嘆きを作品に反映させました。1933年（昭和8年）には、軽井沢で油絵を描いていた矢野綾子と出会い、恋に落ちます。しかし、綾子も肺を病んでおり、1935年（昭和10年）に亡くなりました。この悲しい体験は、堀の代表作『風立ちぬ』の題材となりました。

古典への傾倒

綾子の死後、堀は日本の古典文学に傾倒します。特に『更級日記』や『伊勢物語』といった王朝文学に惹かれ、自身の作品に取り入れました。折口信夫からも古典文学の手ほどきを受け、王朝文学を題材にした『かげろふの日記』を執筆しました。

結婚と晩年

1938年（昭和13年）には加藤多恵子と結婚し、鎌倉や軽井沢で生活します。この頃、立原道造が亡くなりますが、堀は立原を弟のように思っていました。その後、長編小説『菜穂子』を発表し、中央公論社文芸賞を受賞しました。晩年は、病状が悪化し、ほとんど作品を発表できませんでしたが、古典文学への関心を持ち続けました。

死と遺産

1953年（昭和28年）5月28日、結核のため48歳でこの世を去りました。死後、友人や弟子たちの尽力によって、『堀辰雄全集』が刊行され、その文学的功績が広く知られるようになりました。堀の作品は、繊細な心理描写と美しい文章で、今も多くの読者に愛されています。

作品の特徴

堀辰雄の作品は、以下の点で特徴づけられます。

私小説からの脱却: 従来の日本の私小説的な文学の流れに対し、意識的にフィクションとしてのロマンを追求しました。
心理主義の導入: フランス[[文学]]の心理主義を積極的に取り入れ、登場人物の繊細な感情を描き出しました。
古典との融合: 日本の古典文学、特に王朝女流文学に新しい生命を見出し、自身の作品に取り入れました。
死と鎮魂のテーマ: 生と死、愛と喪失といった普遍的なテーマを、独自の美意識で表現しました。
軽井沢を舞台とした作品: 軽井沢での療養生活の体験を基に、多くの作品を執筆しました。

堀辰雄は、日本の近代文学史において、独自の文学世界を築き上げた重要な作家の一人です。

主な作品

ルウベンスの偽画 (1927年)
不器用な天使 (1929年)
聖家族 (1930年)
燃ゆる頬 (1932年)
麦藁帽子 (1932年)
美しい村 (1933年)
物語の女 (1934年)
風立ちぬ (1936-1937年)
かげろふの日記 (1937年)
菜穂子 (1941年)
曠野 (1941年)
花を持てる女 (1942年)

顕彰施設

堀辰雄文学記念館（長野県軽井沢町）
軽井沢高原文庫（長野県軽井沢町）
富士見町高原のミュージアム(長野県諏訪郡富士見町)

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