父の肖像 (デューラー)

『父の肖像』は、ドイツ・ルネサンスの巨匠アルブレヒト・デューラーが1490年に板上に油彩で制作した肖像画です。この作品は、画家と同名の父親を描いたもので、もともとは母親を描いた『バルバラ・ホルパーの肖像』と対をなしていました。現在、この作品はフィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されています。

デューラーの現存する肖像画は約30点ほど知られており、その制作は彼の生涯にわたっています。特に1490年から1500年頃までと、1516年以降の晩年に多くの作品が見られます。本作はデューラーが最初に描いた肖像画であり、当時63歳であった画家の父親をモデルにしています。父親はハンガリー出身（おそらくドイツ系）の金細工師で、ネーデルラントやドイツを遍歴した後、ニュルンベルクのヒエロニムス・ホルパーの工房に入り、1467年にその娘バルバラと結婚しました。バルバラは後にデューラーの母親となります。

この作品が描かれた1490年、デューラーはニュルンベルクの画家ミヒャエル・ヴォルゲムートの工房での修業を終え、遍歴の旅に出る直前でした。19歳であったデューラーは、この作品を母親の肖像とともに旅に携行したいと思ったのでしょう。画面からは、デューラーがモデルの性格までも鋭く描写する、師ヴォルゲムートを上回る技量を身につけていたことが明確に示されています。そして、その描写はヴォルゲムートから学んだものというより、デューラーの父親自身の『自画像』の描写につながるものが見られます。父親の『自画像』は銀筆素描であり、本作は油彩画であるものの、両作品は緻密で几帳面な描写という点で共通しています。

デューラーは父親の肖像を通して、その人物の内面までも捉えようとしたのではないでしょうか。若き日のデューラーの卓越した技術と観察眼が、この作品を通して伝わってきます。この作品は、単なる肖像画としてだけでなく、デューラーの家族への愛情と、彼自身の芸術的な成長を示す重要な作品と言えるでしょう。

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