片山信二

片山 信二

片山信二（1961年2月19日 - ）は、東京都出身の元オートバイ・ロードレース選手です。特に1986年には、全日本ロードレース選手権の250ccクラスにおいてシリーズチャンピオンを獲得したことで知られています。

キャリアの始まり

兄がオートバイレースに熱中していた影響を受け、片山は中学生の頃からサーキットを訪れるようになります。16歳で大型二輪免許を取得すると、19歳から本格的にロードレースへの参戦を開始しました。社会人として働きながらも、MCFAJやMFJ全日本ロードレース選手権のノービスクラスに出場。1982年には全日本ロードレースのノービス250ccクラスで最高5位の成績を収めました。

1983年、国際B級ライセンスに昇格を果たしますが、レース活動のために会社を頻繁に休むことになり、上司からの批判に直面します。両親の反対もありましたが、「25歳までは自分の好きなことに打ち込ませてほしい」と説得し、会社を退職することを決意しました。報道機関のプレスライダーとして生計を立てながらレースを続け、この年の全日本ロードレースでランキング3位を獲得。この実績が認められ、翌1984年からの国際A級ライセンス昇格が決定しました。

全日本250ccクラスでの台頭

1984年、国際A級ライセンスを取得した片山は、競争の激しい全日本250ccクラスにヤマハのTZ250で挑みました。A級初年度ながら、安定して上位入賞を果たし、シリーズランキング6位と早くから頭角を現します。この活躍が評価され、1985年からは名古屋を拠点とする有力なヤマハ系プライベートチーム、「YDS岡部」に加入。同年も確実な上位入賞を続け、シーズン後半にはヤマハワークスから翌年仕様の新型TZ250の先行開発ライダーに選ばれるなど、ワークスからのサポートを得るようになりました。この年、ホンダワークスの小林大が2年連続でチャンピオンとなりますが、片山はTZ250でヤマハ勢最上位となるランキング2位を獲得しました。また、全日本選手権の最終戦後に開催された「TBCビッグロードレース」では、ヤマハから前年型YZR500に乗る機会を得て、最高峰クラスでのレースも経験しました。

1986年：栄光の全日本250ccチャンピオン

1986年は、ホンダがワークスマシンNSR250を複数台投入するなど、ワークスマシン同士の激しい開発競争が始まった年でした。ヤマハもこれに対抗し、新型V型ワークスマシンYZR250を片山と長谷川嘉久に託し、タイトル争いを展開します。当時のレーススタートは「押しがけ」方式でしたが、YZR250は走行性能は優れるものの、スタート時のエンジンの始動性に難があるという特徴がありました。これは世界グランプリでYZRを駆る平忠彦も苦労した点であり、片山も全日本で同様の課題に直面します。

シーズンは、長谷川が序盤を連勝してリードする形で始まりました。ホンダのエースである小林大が調子を崩す中、第4戦からは最新型NSRを得た清水雅広が速さを見せ優勝するなど、競争は激化します。片山は、始動性の問題からスタートで後れを取る場面が続きましたが、驚異的な追い上げで2位表彰台を獲得するレースを何度も展開しました。しかし、開幕前のテストと第4戦筑波での転倒により鎖骨を骨折しており、万全の状態ではありませんでした。もう1台のYZRを駆る長谷川も、スタートの不利が響き夏以降は苦戦が増えます。ホンダの清水は最多勝を挙げたものの、トップ争い中のマシントラブルや最終戦での転倒リタイアなどにより、安定してポイントを重ねることができませんでした。

一方、片山はノーポイントに終わるレースが少ない、クレバーなライディングを持ち味にコンスタントにポイントを獲得。シーズン終盤のSUGOで2回目の優勝を挙げると、長谷川に対し4ポイントのリードを築き最終戦を迎えます。最終戦鈴鹿（日本GP）では、ホンダがWGPを終えたアントン・マンクやアルフォンソ・ポンス、コーク・バリントンといった海外有力ライダーもNSR250で参戦させ、片山へのプレッシャーが高まります。ヤマハも負傷から復帰した奥村裕がYZRで参戦し台数を増やしましたが、片山は当時「最終戦はその前の週からプレッシャーを強く感じていて、周囲とまともに話が出来なくなっていた」と語るほど、精神的に追い込まれていました。

迎えた鈴鹿でのタイトル決定戦では、序盤、ポイントを争う長谷川が片山よりも前を走り、一時的にランキングが逆転する可能性もありました。しかし、最終シケインで長谷川が転倒。その後、片山は堅実にレースをまとめ、4位でフィニッシュしポイントを加算しました。この結果、ランキング2位となった長谷川に20ポイント以上の差をつけ、ヤマハに全日本250ccクラスのシリーズチャンピオンをもたらしました。

500ccクラスへの挑戦と引退

1987年からは、全日本選手権の最高峰クラスである500ccクラスにステップアップし、ヤマハYZR500を駆りました。500cc初年度ながら、水谷勝や木下恵司、藤原儀彦といったトップライダーたちと優勝争いを演じ、高い適応力を見せます。第10戦SUGOでは自身初の500ccクラス優勝を飾り、この年ランキング3位を獲得しました。しかし、2年目の1988年は転倒による骨折が度重なるなど不運に見舞われ、ランキングは7位に後退。1989年には8月27日の第5戦SUGOで雨のレースを制しましたが、その他のレースでは250cc時代に比べてノーポイントとなるレースが増加しました。また、同じYZR500を駆る藤原儀彦が全日本500ccクラスで3年連続チャンピオンを獲得するなど、伊藤真一や町井邦生といった新しい世代のライダーが台頭し、競争はさらに激しくなります。1991年以降は、ダリル・ビーティやケビン・マギー、ピーター・ゴダードといった海外からの有力ライダーが全日本500ccクラスにフル参戦を開始し、トップ争いに加わることが難しくなり、中団での戦いを強いられる場面が増えました。

全日本ロードレース選手権で500ccクラスが終了した1993年シーズンを最後に、二輪ロードレースから引退することを発表しました。引退後は、四輪車両の開発テストドライバーへと転身。ヤマハにおいて自動車技術、特にサスペンションの評価など、開発業務に従事しました。現在もモータースポーツイベントにおいて、ヤマハが開発したスーパーカーOX99-11のデモランを担当することがあります。

片山信二は、不屈の精神とクレバーなレース運びで全日本チャンピオンの栄光を掴み取り、最高峰クラスでも一時代を築いたライダーであり、その後の四輪開発においても培った技術と経験を活かしています。

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