片野実之助

片野実之助：教育者と保険学者の生涯

片野実之助（1876-1945）は、日本の近代保険制度の発展に貢献した保険学者であり、教育者として後進の育成にも力を注いだ人物です。東京で生まれ育ち、東京府尋常中学校（現在の東京都立日比谷高等学校）を経て、1898年には高等商業学校（現在の一橋大学）を卒業しました。

卒業後は三重県立四日市商業学校で教鞭をとり、研鑽を積みます。その後、1905年から2年間、文部省の在外研究員としてドイツ、イギリス、アメリカ合衆国に留学しました。この留学は、彼の専門性を深める上で大きな転機となったことは間違いありません。先進諸国の経済状況や教育制度、そして保険制度を肌で感じ、自身の知識・見識を大きく広げたことでしょう。

帰国後、山口高等商業学校教授を経て、1915年には大阪高等商業学校（現在の大阪公立大学）の校長に就任しました。校長としては、学校運営に尽力する傍ら、母校である東京高等商業学校との連携強化にも注力しました。両校間の人的交流や情報交換を促進することで、日本の商業教育の発展に貢献しようと試みたのです。

教育活動に加え、片野は保険業界にも深く関与していました。太平洋海上火災保険の監査役を務めるなど、その専門性を活かした活動も展開しました。保険制度に関する深い知識と経験に基づき、業界の発展に寄与したと考えられます。

彼の業績は、単に教育や保険業界にとどまりません。著述活動にも積極的に取り組み、『取引所論』（1915年）、『保險講義案』（1929年）、『家事経済読本』（1942年）など、多くの書籍を著しました。これらの著作は、当時の社会情勢や経済状況を反映しており、貴重な歴史的資料ともなっています。それぞれの著作が、当時の社会問題を鋭く捉え、多角的な視点から分析していることは容易に想像できます。

私生活においては、息子である実雄の妻、すなわち義理の娘に、松竹楽劇部の初代トップスターとして活躍した飛鳥明子（本名：片野〈旧姓・松田〉貞子）がいました。この事実からも、片野実之助が当時の社会において、幅広い交友関係を持っていたことが伺えます。

1945年に逝去した片野実之助。教育者、保険学者、そして一人の人間として、日本の近代化に貢献した彼の生涯は、後世への大きな足跡を残しました。彼の残した著作や、教育・業界への貢献は、現在に至るまで、日本の社会経済に影響を与え続けていると言えるでしょう。

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