牛木辰男

牛木辰男（うしきたつお）氏は、1957年に新潟県糸魚川市に生まれた日本の医学者、解剖学者、そして医師です。特に、電子顕微鏡を駆使した顕微解剖学研究を専門としており、その分野における国内有数の研究者として知られています。

彼のキャリアは、現在の第16代新潟大学学長という要職に象徴されています。2020年2月1日に学長に就任して以来、大学運営の舵取りを担っています。また、国立大学協会副会長や日本解剖学会常務理事、さらには日本顕微鏡学会の前会長（2017～2018年）を務めるなど、学術界や高等教育界において幅広く活動しています。

経歴と学術的歩み

新潟県で育った牛木氏は、新潟県立高田高等学校を経て、1982年に新潟大学医学部医学科を卒業しました。その後、同大学大学院医学系研究科に進学し、1986年に博士課程を修了して医学博士の学位を取得しました。

研究者としての第一歩は、1986年に岩手医科大学医学部で助手として始まりました。同大学で講師を務めた後、1990年には北海道大学医学部へ移り助教授を務めました。そして1995年、母校である新潟大学医学部に教授として着任します。以降、大学院医歯学総合研究科への配置換や、医歯学系教授への配置換を経て、長年にわたり顕微解剖学分野の研究・教育を牽引しました。

教育・研究活動と並行して、大学運営においても重要な役割を果たしています。新潟大学医学部副学部長（2012～2014年）を務めた後、医歯学系長および医学部長を兼任（2014～2018年）。さらに理事（国際担当）・副学長（2018～2020年）を経て、2020年2月に第16代学長に就任しました。学長専任に伴い、2021年1月には顕微解剖学分野の教授職を退任しています。

研究分野と師事した人々

牛木氏の主要な研究領域は顕微解剖学であり、特に走査プローブ顕微鏡の医生物応用や、電子顕微鏡を用いた組織の超微細な立体構造の解析を専門としています。これらの研究は、生命科学や医学の基盤となる細胞や組織の構造を理解する上で極めて重要です。

彼の学術的な礎を築く上で、二人の偉大な師の存在が挙げられます。一人は、新潟大学医学部第三解剖学教室の前任教授であり、師弟関係を結んだ藤田恒夫教授です。藤田教授とは共著で「細胞紳士録」を執筆するなど、深い交流がありました。もう一人は、当時第一解剖学教室の教授であった人類学者・解剖学者の小片保教授で、牛木氏は小片教授の講義を通じて学びを深めました。

人物像と多彩な才能

牛木氏は、研究者・教育者としての顔だけでなく、非常に多彩な人物としても知られています。趣味は絵を描くこと、連句、そしてパスタづくりと多岐にわたります。特に美術に対する情熱は学生時代から顕著で、1978年には春陽会展に出品し、1982年には個展を開催しています。高校時代には同級生が美術大学への進学を疑わなかったほど、美術に傾倒していました。

医学部への進学を決めた背景には、学生時代に受けた組織学の講義で、顕微鏡が映し出すミクロの世界に魅了されたことが大きく影響しています。さらに、組織学教室を主宰していた藤田恒夫教授がデッサン会を催すなど、美術にも深い造詣を持っていたことも、牛木氏が藤田教授の研究室に出入りするきっかけとなり、その後の専門分野選択に繋がったと考えられます。

座右の銘である「不易流行」は、彼の学術的な探求心と、趣味を通じた柔軟な発想の両方を表しているかのようです。

執筆活動

牛木氏は、自身の専門分野である顕微解剖学に関する幅広い執筆活動も行っています。医学生向けの専門教科書から、一般向けの科学解説書まで、多くの読者にミクロの世界の魅力を伝えています。

彼の著書の特徴の一つは、手描きのスケッチやイラストが多く挿入されていることです。これは、自身の美術の素養を活かし、複雑な構造を視覚的に分かりやすく伝えようという配慮から生まれています。代表的な著書である「入門組織学」は、初学者向けの組織学教科書として非常に評価が高く、新潟大学だけでなく、東京医科歯科大学、京都大学、広島大学、香川大学など、全国各地の多くの大学で教科書や参考書として採用されています。他にも「細胞大図鑑」や「ずかんヒトの細胞」といった一般向けの書籍、専門書、共著書、翻訳書など、多岐にわたる著作があります。

研究、教育、大学運営、そして美術や執筆といった多角的な活動を通じて、牛木辰男氏は顕微鏡科学と医学の発展に貢献し続けています。

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