牧場の聖母

『牧場の聖母』

『牧場の聖母』、正式には『聖母子と幼児の洗礼者聖ヨハネ』は、ルネサンス時代の巨匠ラファエロ・サンツィオによって1506年に制作された一枚の絵画です。この作品は油彩で描かれ、長らくウィーンのベルヴェデーレ宮殿に保管されていたため、『ベルヴェデーレの聖母』とも呼ばれています。現在、絵画はウィーンの美術史美術館に収蔵されています。さらに、聖母マリアの衣装の縁には「M.D.VII」の年記があり、これにより制作年が確認されています。

来歴

この絵画は、ジョルジョ・ヴァザーリの記録によると、フィレンツェの人文主義者でパトロンでもある商人タッデオ・タッデイのために描かれました。タッデイの家族は1662年にこの作品をオーストリア大公フェルディナント・カールに売却、その後、同年中にインスブルックのアンブラス城へ移され、1773年にはベルヴェデーレ宮殿に加わる形で所蔵されることになりました。

背景

ラファエロはフィレンツェ時代に、聖母と幼子たちを組み合わせた聖母子画を数多く手がけておりその中でも特に聖母マリア、幼子イエス・キリスト、幼児洗礼者ヨハネを描いた組み合わせは目を引くものです。この作品はピラミッド型の安定した構図が特徴で、聖母の頭部を頂点とする形で構成されています。このアプローチは、同時代の画家レオナルド・ダ・ヴィンチから影響を受けたものとされていますが、ラファエロの作品は二等辺三角形を形成し、より柔らかな印象を与えています。様々な聖母子画の中でも、聖ヨハネが描かれているのはこの時期のフィレンツェにおいて特に重要な位置を持っていました。

作品の特徴

『牧場の聖母』は、穏やかな芝生の草地に描かれ、聖母マリアが赤いドレスに金縁の青いマントをまとっており、洗礼者聖ヨハネと幼いイエスが登場します。聖母は左脚を対角に延ばし、ヨハネに優しく視線を向けています。イエスは左足を前に出し、聖母の手で支えられています。この絵画の中で赤いケシの花は、イエスの受難や復活を象徴しており、全体的に平和で理想的な瞬間が描写されています。ただし、聖ヨハネが持つ十字架は、近い将来の受難を暗示している点が興味深いです。

この作品はリラックスした雰囲気があり、ラファエロの技術の高さを示しています。ルネサンス時代において、このような穏やかな構図は高く評価され、画家はさらに多くの公共の場での作品の依頼を受けることとなります。その中でも、ローマ教皇ユリウス2世のために、ヴァチカン宮殿の「ラファエロの間」として知られる部屋でのフレスコ画の制作が特に有名です。

修復と発見

1983年に美術史美術館の専門家が『牧場の聖母』の修復を行い、過去の加筆やニスを取り除くことで、画家の本来の意図が明らかにされました。その結果、絵画が持つ独特の構造が理解され、ラファエロの表現技法が再評価されました。特に、色合いの変化や、青の筆触が人物の輪郭に沿っていることが確認され、底面には別の青の空の描写が見えることが判明しました。さらに、赤外線技術による調査が行われ、作品に転写された下絵も発見されるなど、ラファエロの創作過程に関する貴重な情報が提供されています。これにより、『牧場の聖母』はただの名画に留まらず、芸術的な探求の一過程としても評価されるようになりました。

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