犬の目

犬の目（いぬのめ）

概要

「犬の目」は古典落語の演目であり、別名「目玉違い（めだまちがい）」とも呼ばれています。この噺は、演者が持ち時間が限られている時や、早く高座を下りなければならない状況において適しており、いわゆる「逃げ噺」の一例とされています。噺自体の構造は非常に柔軟で、さまざまな場面でクスグリを挿入したり省略したりすることが可能です。このため、演じる時間が自由に調整できるのが特徴です。

原話は1773年に出版された笑話本『聞上手』の一篇「眼玉」に由来しています。この演目を演じる主な落語家には、東京の4代目橘家圓蔵や5代目三升家小勝、さらに漫談調の新作落語を得意とした初代林家三平などがいます。また、上方落語においては3代目桂米朝が橘ノ圓都の記憶を元にアレンジを加えました。さらに、立川こしらは独自に大幅にアレンジし、30分を超える壮大な作品に仕上げました。

あらすじ

物語は、目に不調をきたした男が友人から医者の紹介を受け、急いで医院に駆け込むところから始まります。医師は男に「これは手遅れだ」と告げ、目の下に皿を持たせます。男が「目玉を洗うのですか？」と尋ねると、医師は「くり抜きます」と答え、男は驚愕します。医師はユーモラスな動作で男の目を引っこ抜き、助手の小僧に「薬液に漬けておけ」と指示します。

その後、医師はきれいになった男の眼球を元通りにしようとしますが、うまくいきません。「液に漬けすぎてふやけてしまったかもしれない。少し日陰に干しておこう」と言い、助手に運ばせます。しばらくして、助手が医師を呼びに来て「目が見えなくなりました」と報告します。「お前もか、すぐに直してやる」と医師が答えますが、助手は「そうではなくて、干していた目玉が行方不明になってしまったのです」と言います。すると庭の隣家の犬が、舌なめずりをしながら寝そべっているのが見えます。医師は「犬が目玉を食べてしまった。仕方がない、これで代用しよう」と言い、犬を押さえつけてその目玉を引き抜き、何事もなかったように男の元へ持って行きます。「今日は帰って安静にし、明日また来なさい」と告げます。

二日後、男が再び医院を訪れると、「今までの目玉よりも遠くが見え、夜でも昼のように明るく見えます」と喜びを語ります。医師はその言葉に安心しますが、男は「しかし、一つ困ったことができました」と話します。「それは何ですか？」と医師が尋ねると、男は「電柱を見ると、どうしても小便がしたくなる」と告白します。

バリエーション

この噺のパフォーマンスにはいくつかのバリエーションがあります。冒頭の男と友人の会話を時間をかけて演じるスタイルでは、様々なユーモラスなやり取りが見られます。
例として、「雲がかかっているから『雨降りの目』だ」といったやり取りや、「晴れている目玉に星が出ている」という発言が含まれます。東京では、医者の名前を「ヘボンの弟子でシャボン」とすることが多いです。また、医者が留守の時に弟子が応対する展開もよく見られます。

医者が男の目を引き抜いた後の会話も多様で、男のセリフに医者が面白い返しをする場面が魅力です。原話では、男が「自分の目を抜くとなんとなく寂しいですね」と問い、医師が「にぎやかさを感じます」と返すやりとりなどが存在していました。

「犬の目」は落語の中でも独特のユーモアを持った演目であり、演じる際のアレンジ次第で新しい魅力を引き出すことができる、一つの伝統的な芸術として愛され続けています。

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