独裁者 (映画)

映画『独裁者』解説

『独裁者』（The Great Dictator）は、1940年に公開されたチャールズ・チャップリン監督・製作・脚本・主演のアメリカ映画です。当時のドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーを批判的に描いた作品として、映画史に名を刻んでいます。

概要

チャップリンは、ヒトラーの独裁政治、近隣諸国への軍事侵略、ユダヤ人迫害などを大胆に風刺しました。平和を享受していた当時のアメリカ社会とは一線を画す内容であり、チャップリン映画初の完全トーキー作品としても知られています。また、チャップリンの作品の中で最も商業的に成功した作品の一つです。

アカデミー賞では作品賞、主演男優賞など5部門にノミネートされ、ニューヨーク映画批評家協会賞では主演男優賞を受賞しています。しかし、チャップリンは受賞を拒否しました。1997年にはアメリカ国立フィルム登録簿に登録されています。

あらすじ

第一次世界大戦中、トメニアの二等兵であるユダヤ人の床屋（チャップリン二役）は、負傷した飛行士官シュルツを救出します。しかし、トメニアは降伏し、床屋は記憶を失ってしまいます。

数年後、トメニアは独裁者アデノイド・ヒンケル（チャップリン二役）の支配下に置かれ、ユダヤ人への迫害が始まります。記憶を取り戻した床屋は、ゲットーでハンナという女性と出会い、親しくなります。ある日、床屋は突撃隊に暴力を振るわれますが、シュルツに助けられます。シュルツはヒンケルの信頼を得て突撃隊長になっていましたが、床屋がユダヤ人だと知りながら彼を守ろうとします。

ヒンケルは隣国オーストリッチへの侵略を企て、ユダヤ人への抑圧政策を緩和しますが、資金援助を断られると再び態度を変え、シュルツにゲットーを襲撃するように命じます。シュルツが拒否すると、ヒンケルは彼を強制収容所に送ります。床屋の店も破壊され、彼はシュルツと共に強制収容所に送られます。ハンナたちはオーストリッチへ避難しますが、そこもまたヒンケルの侵略を受けます。

床屋とシュルツは収容所から脱出し、ヒンケルと間違えられた床屋は、トメニア軍に占領されたオーストリッチの首都で演説をすることになります。そこで床屋は、自由と寛容、人種の壁を越えた融和を訴え、ハンナに希望を語りかけます。

キャスト

アデノイド・ヒンケル／ユダヤ人の床屋：チャールズ・チャップリン
ハンナ：ポーレット・ゴダード
ベンツィーノ・ナパロニ：ジャック・オーキー
ガービッチ：ヘンリー・ダニエル
* シュルツ：レジナルド・ガーディナー

製作の背景

チャップリンは当初、ナポレオンを主人公にした映画を構想していましたが、時勢を考慮し、ヒトラーを題材にした映画を製作することにしました。1930年代にエスカレートするドイツのユダヤ人迫害も、製作の動機となりました。

公開と評価

映画の製作中から、その内容を巡って賛否両論が巻き起こりました。アメリカでは公開後大ヒットとなりましたが、ラストの演説を「共産主義的」と批判する声もありました。また、ドイツをはじめとする国々では上映が禁止されました。

しかし、現在では映画史に残る傑作として高く評価されており、数々のランキングで上位にランクインしています。

映画が持つ意義

『独裁者』は、チャップリンが自身の信念を込めて製作した作品であり、独裁政治の危険性、自由と寛容の重要性を訴えています。ラストの演説は、今もなお世界中の人々の心に響き、希望を与え続けています。

チャップリンは後に、「ホロコーストの存在を知っていたら、この映画は作れなかったかもしれない」と語っていますが、この映画は、歴史の暗部を風刺とユーモアで描き出し、平和への願いを込めた不朽の名作として、語り継がれるでしょう。

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