猫の喧嘩

《猫の喧嘩》

フランシスコ・デ・ゴヤの《猫の喧嘩》（西: Riña de gatos、英: Cats fighting）は、1786年に制作された油彩画であり、スペインのロマン主義の巨匠として知られる彼の代表作の一つです。この作品は、エル・パルド王宮の装飾のために制作されたタペストリー用のカルトンの一部で、現在はマドリードのプラド美術館に所蔵されています。

制作の背景

ゴヤは自身の生涯にわたる6つの時期に、合計63点のカルトンを制作しました。その中で、1786年から1787年にかけて制作された《四季》連作は第5期に位置しており、エル・パルド王宮内のカルロス3世の会談室を装飾するために全13点が計画されました。ゴヤは、友人で商人のマルティン・サパテールに宛てた手紙の中で、いくつかの下絵を制作中であることを告げています。ただ、彼は当初この連作を王太子夫妻の食堂のためだと誤解していたようで、この食堂にはすでに別のタペストリーがありました。《四季》連作の内、現存する作品は12点で、その中には本作や『脱穀場、あるいは夏』、また『ブドウ摘み、あるいは秋』などが含まれています。

作品の内容

《猫の喧嘩》では、黒猫と虎毛の猫が壊れたレンガの壁の上で対峙し、おたがいに威嚇しています。黒猫は、夕暮れに照らされた壁に虎毛の猫がいることに気づかずに登ったと思われ、予期せぬ出会いが生じました。その驚きから、両者は立ち上がり、自身を大きく見せようとしています。特に虎毛の猫はその毛を逆立て、口を開けて威嚇音をあげながら、攻撃する準備を整えています。一方で黒猫は、身を引いてより防御的な態勢をとり、自身を隠そうとしている様子が伺えます。

ゴヤの描写は、生き生きとして自然な表現です。二匹の猫の姿は、背景の空と対比しながら明瞭に浮かび上がっており、場面設定である崩れた壁や、その背後に広がる空間は、この場所が忘れ去られたものであることを示しています。この作品は高高さからの視点と、猫たちの出会いから生まれる緊張感が連動しており、タペストリーのデザインのために特別に考えられたものであるとされています。

歴史的経緯

1788年、カルロス3世が亡くなった後、カルロス4世はエル・パルド王宮を離れることになり、制作されたタペストリーは本来の装飾場所には飾られませんでした。その後、タペストリーはサンタ・バルバラ王立タペストリー工場で保管され、1856年以降にオリエンテ宮殿の地下室に移されたと考えられています。この作品の最初の記録は1834年のビセンテ・ロペスによるもので、最終的には1870年にプラド美術館に収蔵されました。

帰属の論争

《猫の喧嘩》はゴヤの作品と広く認知されていますが、帰属については議論が続いています。1834年の遺言書にはゴヤの作品であると記載されていますが、1870年にプラド美術館に収蔵された際には制作者不詳の作品とされました。その後、1984年には他の数人の研究者の意見が分かれ、ゴヤの技法と不一致な構図を指摘する声もあがっています。それに対抗する形で、カルトンが再びゴヤに帰属されることがありました。

保存状態

本作品の保存状態は良好とは言えません。長期間にわたり地下室で保管されていたため、湿気や物理的な圧力の影響で深刻なダメージを受けています。これはタペストリーの保存自体にも影響を及ぼしています。全体として、フランシスコ・デ・ゴヤの《猫の喧嘩》は、単なる動物の争いを描いたものではなく、緊迫した瞬間を捉えた力強い表現が詰まった作品です。

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