猿橋賞

猿橋賞：日本の女性科学者を輝かせる賞

猿橋賞は、日本の女性科学者にとって大きな栄誉である賞です。自然科学分野において、卓越した研究業績を上げた50歳未満の女性研究者を表彰することを目的としています。この賞は、1981年に地球化学者であり、気象研究所に勤務していた猿橋勝子氏が退官の際に寄付した500万円を基金として設立されました。

猿橋賞の選考は厳正に行われ、学会などからの推薦や、自ら応募した研究者の中から、その年の最も優れた業績を挙げた女性科学者が選ばれます。受賞者には、50万円の賞金が授与されます。賞の選考には、その年の研究成果の独創性、重要性、将来性などが考慮され、日本の科学技術の発展に大きく貢献する研究が評価の対象となります。

猿橋賞は、自然科学分野における女性の活躍を促進し、彼女たちの研究活動を支援するために設立されました。若い女性研究者にとって、大きな励みとなり、将来の研究活動への意欲を高める役割を果たしています。受賞者は、それぞれの専門分野において、先駆的な研究を行い、日本の科学技術の進歩に貢献してきた優れた研究者ばかりです。

歴代の受賞者と研究内容

猿橋賞は、これまで多くの優秀な女性科学者を輩出してきました。それぞれの受賞者の研究内容を紹介することで、猿橋賞がいかに自然科学分野の進歩に貢献してきたかを示すことができます。以下は、歴代の受賞者と、彼女たちの研究内容の例です。

第1回（1981年）太田朋子氏: 分子レベルにおける集団遺伝学の理論的研究で、遺伝子の多様性や進化のメカニズム解明に貢献しました。
第2回（1982年）山田晴河氏: レーザー・ラマン分光を用いた表面現象の研究で、物質表面の構造や反応を解明する手法を確立しました。
第3回（1983年）大隅正子氏: 酵母細胞の微細構造と機能の研究で、細胞内の物質輸送やエネルギー産生に関する知見を深めました。
第4回（1984年）米沢富美子氏: 非結晶物質の基礎物性の理論的研究で、ガラスやアモルファス材料の性質解明に貢献しました。
第5回（1985年）八杉満利子氏: 解析学における論理構造解明のための方法論を確立し、数学の基礎理論の発展に貢献しました。
第6回（1986年）相馬芳枝氏: 新しい有機合成触媒の開発で、環境に優しい化学反応の開発に貢献しました。
第7回（1987年）大野湶氏: 電気化学的薄膜形成の基礎的研究で、電子デバイス開発に不可欠な技術開発に貢献しました。
第8回（1988年）佐藤周子氏: 放射線によるがん細胞分裂死の研究で、がん治療法の開発に貢献しました。
第9回（1989年）石田瑞穂氏: 微小地震による地下プレート構造と地震前兆の研究で、地震予知研究の発展に貢献しました。
第10回（1990年）高橋三保子氏: 原生動物の行動の遺伝学的研究で、生物の行動と遺伝子の関係性を解明しました。
第11回（1991年）森美和子氏: 医薬品合成のための新しい反応の開発で、医薬品開発技術の進歩に貢献しました。
第12回（1992年）加藤隆子氏: 高温プラズマの原子過程の研究で、核融合エネルギー開発に貢献しました。
第13回（1993年）黒田玲子氏: 非対称な分子の左右やDNA塩基配列の識別のしくみの研究で、生命現象の解明に貢献しました。
第14回（1994年）白井浩子氏: ヒトデの排卵と卵成熟のしくみの研究で、生物の生殖に関する知見を深めました。
第15回（1995年）石井志保子氏: 代数幾何学における特異点の研究で、数学の基礎理論の発展に貢献しました。
第16回（1996年）川合眞紀氏: 固体表面における化学反応の基礎研究で、化学反応のメカニズム解明に貢献しました。
第17回（1997年）高倍鉄子氏: 植物耐塩性の分子機構に関する研究で、食糧生産向上に貢献しました。
第18回（1998年）西川恵子氏: 超臨界流体の研究で、新しい物質合成や環境浄化技術の開発に貢献しました。
第19回（1999年）持田澄子氏: 神経伝達物質の放出機構の研究で、神経系の機能解明に貢献しました。
第20回（2000年）中西友子氏: 植物における水および微量元素の挙動に関する研究で、植物の生育メカニズムを解明しました。
第21回（2001年）永原裕子氏: 隕石や惑星物質の形成と進化の研究で、太陽系の起源解明に貢献しました。
第22回（2002年）真行寺千佳子氏: 生物べん毛運動に関する研究で、生物の運動機構を解明しました。
第23回（2003年）深見希代子氏: 生命現象におけるリン脂質代謝の役割の研究で、生命現象の理解を深めました。
第24回（2004年）小磯晴代氏: 衝突型加速器KEKBにおける世界最高輝度達成への貢献で、素粒子物理学の発展に貢献しました。
第25回（2005年）小谷元子氏: 離散幾何解析学による結晶格子の研究で、材料科学の発展に貢献しました。
第26回（2006年）森郁恵氏: 感覚と学習行動の遺伝学的研究で、生物の行動のメカニズム解明に貢献しました。
第27回（2007年）高薮縁氏: 熱帯における雲分布の力学に関する観測的研究で、気候変動研究に貢献しました。
第28回（2008年）野崎京子氏: 金属錯体触媒を用いる極性モノマーの精密重合の研究で、新しい高分子材料の開発に貢献しました。
第29回（2009年）塩見美喜子氏: RNAサイレンシング作用機序の研究で、遺伝子発現制御のメカニズム解明に貢献しました。
第30回（2010年）高橋淑子氏: 動物の発生における形作りの研究で、生物発生のメカニズム解明に貢献しました。
第31回（2011年）溝口紀子氏: 爆発現象の漸近解析で、流体力学の発展に貢献しました。
第32回（2012年）阿部彩子氏: 過去から将来の気候と氷床の変動メカニズムの研究で、気候変動研究に貢献しました。
第33回（2013年）肥山詠美子氏: 量子少数多体系の精密計算法の確立とその展開で、物理学の発展に貢献しました。
第34回（2014年）一二三恵美氏: 機能性タンパク質『スーパー抗体酵素』に関する研究で、バイオテクノロジーの発展に貢献しました。
第35回（2015年）鳥居啓子氏: 植物の細胞間コミュニケーションと気孔の発生メカニズムの研究で、植物生理学の発展に貢献しました。
第36回（2016年）佐藤たまき氏: 記載と系統・分類学を中心とする中生代爬虫類の研究で、古生物学の発展に貢献しました。
第37回（2017年）石原安野氏: アイスキューブ実験による超高エネルギー宇宙線起源の研究で、宇宙物理学の発展に貢献しました。
第38回（2018年）寺川寿子氏: 地震活動を支配する地殻応力と間隙流体圧に関する研究で、地震学の発展に貢献しました。
第39回（2019年）梅津理恵氏: ハーフメタルをはじめとするホイスラー型機能性磁気材料の物性研究で、材料科学の発展に貢献しました。
第40回（2020年）市川温子氏: 加速器を用いた長基線ニュートリノ実験によるニュートリノの性質の解明で、素粒子物理学の発展に貢献しました。
第41回（2021年）田中幹子氏: 脊椎動物の四肢の発生と進化に関する研究で、進化生物学の発展に貢献しました。
第42回（2022年）関口仁子氏: 原子核物理学における三体核力の実験的研究で、原子核物理学の発展に貢献しました。
第43回（2023年）宮原ひろ子氏: 太陽活動の変動のメカニズムおよびその気候への影響に関する研究で、地球物理学の発展に貢献しました。
第44回（2024年）緒方芳子氏: 数理物理分野の量子多体系の数学的研究で、数学の発展に貢献しました。

これらの研究は、いずれも自然科学分野における重要な発見や進歩であり、日本の科学技術水準向上に大きく貢献しています。猿橋賞は、今後も日本の女性科学者の活躍を支え、未来の科学技術の発展に貢献していくでしょう。

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