猿橋勝子

猿橋勝子（1920年 3月22日 - 2007年 9月29日）は、日本の地球科学者であり、地球化学を専門としていました。特に、海洋における放射能研究で高い評価を受け、東邦大学の理事および客員教授を歴任しました。

略歴

東京府で生まれ、東京府立第六高等女学校（現在の東京都立三田高等学校）を経て、帝国女子理学専門学校（現在の東邦大学理学部）を卒業しました。中央気象台研究部（現在の気象庁気象研究所）で三宅泰雄の指導を受け、研究者としての道を歩み始めました。1954年のビキニ事件で発生した「死の灰」による大気・海洋汚染の研究に取り組み、三宅と共に大気と海洋の放射能汚染に関する調査研究を行い、その成果は高く評価され、1963年の部分的核実験禁止条約の成立に貢献しました。

1957年には、東京大学から理学博士号を授与されました。博士論文の題は「天然水中の炭酸物質の行動について」です。1958年には、「日本婦人科学者の会」の創立メンバーの一人となりました。

1980年に気象庁気象研究所を定年退官する際、退官を記念して集められた寄付金を基に「女性科学者に明るい未来をの会」を設立し、女性科学者を対象とした「猿橋賞」を創設しました。第22回猿橋賞を受賞した真行寺千佳子によれば、猿橋は猿橋賞の創設以来、賞に関する正確な情報の普及と効果的な広報を徹底し、受賞者の記者会見での説明が不十分な場合は厳しく指導するなど、賞の価値を高めるために尽力しました。

1980年には、女性として初めて日本学術会議会員に選出され、翌1981年にはエイボン女性大賞を受賞しました。1985年には、「放射性及び親生元素の海洋化学的研究」により、日本地球化学協会から三宅賞を受賞。1993年には、「長年の海水化学の進歩への貢献」により、日本海水学会から田中賞（功労賞）を受賞しました。また、平和・民主・革新の日本をめざす全国の会（全国革新懇）の世話人も務めました。

2007年 9月29日、間質性肺炎のため東京都内の病院で逝去されました。享年87歳でした。

海洋の放射能汚染調査

1960年、カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリップス海洋研究所のセオドア・フォルサム博士らは、南カリフォルニアの海水中のセシウム137の濃度をネイチャー誌に発表しました。一方、三宅と猿橋は日本近海におけるセシウム137の濃度を報告し、その値はフォルサムらの報告値よりも10倍から50倍高いことが判明しました。三宅と猿橋は、日米における測定値の差を海流の解析によって説明しましたが、海水で希釈されるため放射能汚染の心配はないとするアメリカをはじめとする科学者からは、猿橋らの測定は誤りであるとの批判を受けました。

そこで、三宅はアメリカ原子力委員会に同一の海水を用いた日米の相互検定を申し入れました。1962年から1963年にかけて、猿橋は放射能分析法の相互比較を目的としてスクリップス海洋研究所に招聘され、フォルサムとの間で微量放射性物質に対する分析測定法の精度を競うことになりました。猿橋の分析は高い精度を示し、フォルサムは猿橋の分析を認め、高く評価するようになりました。日米の測定法の相互比較の結果は、共著として発表されました。

トピック

2018年 3月22日には、Google Doodleで彼女の生誕98年が記念されました。

著書

猿橋勝子　『地球はどんな物質から出来ているか』　恒星社厚生閣〈楽しい理科教室24〉、1955年。
日本分析化学会編　『新分析化学講座10 標準分析と試験法化学工業編』　共立出版、1960年。
樋口恵子編　『女性の適職 - 仕事とわたし』　啓隆閣、1973年。
猿橋勝子　『女性として科学者として』　新日本出版社、1981年。
猿橋勝子　『学ぶこと生きること - 女性として考える』　福武書店、1983年、ISBN 4-8288-1089-7。
女性学研究会編　『講座女性学2 女たちのいま』　勁草書房、1984年。
猿橋勝子・塩田庄兵衛編著　『女性研究者 - あゆみと展望』　ドメス出版、1985年。
湯浅明・猿橋勝子編　『女性科学者21世紀へのメッセージ』　ドメス出版、1996年、ISBN 4-8107-0435-1。
猿橋勝子　『猿橋勝子 - 女性として科学者として』　日本図書センター〈人間の記録97〉、1999年、ISBN 4-8205-4343-1。
猿橋勝子監修　『親愛なるマリー・キュリー - 女性科学者10人の研究する人生』　東京図書、2002年、ISBN 4-489-00634-9。

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