玄室

玄室（げんしつ）は、古墳時代に多く見られる横穴式石室や、横穴墓において、遺体を安置するために設けられた主要な空間を指します。その名称は、本来「暗い部屋」を意味していましたが、古代中国の墓制において地下に構築された墓室を玄室と呼んだことに倣い、日本においても同様の構造を持つ埋葬空間を指すようになりました。

玄室の歴史と語源

『日本書紀』欽明天皇16年2月条には「玄室（くらきや）に安みせむ」という記述があり、この頃には既に玄室という言葉が用いられていたことがわかります。この記述からもわかるように、玄室は古代の人々にとって、死者を安らかに眠らせるための特別な場所であったと考えられます。玄室は、単なる埋葬空間ではなく、死後の世界へと続く重要な場所として認識されていたのでしょう。

玄室の構造

玄室は、羨道（せんどう）と呼ばれる墓の入口から続く通路と繋がっており、その境界を羨門（せんもん）と呼びます。横穴式石室のように、二つの石室が連続して設けられている場合、奥の石室を後室または奥室、入口側の石室を前室と区別します。

玄室の平面形は、長方形、正方形、隅丸正方形、三味線胴張形、円形など多様です。壁の構造には、石材を積み上げて持ち送り状に空間を形成する工法が多く用いられますが、石材を直接削り出して作る例も見られます。

玄室内の施設

玄室内には、遺体を納めるための石棺や棺台、空間を区切るための石障、そして石屋形（いしやがた）などが設けられることがあります。これらの施設は、死者の埋葬だけでなく、死後の世界での安寧を祈るための様々な意図が込められていると考えられます。

装飾古墳と玄室

玄室は、しばしば壁画で装飾されることがあります。高松塚古墳やキトラ古墳のように、壁画が描かれた古墳は装飾古墳と呼ばれます。これらの古墳では、玄室の壁に、四神（青龍、白虎、朱雀、玄武）や人物、動植物などが色鮮やかに描かれています。これらの壁画は、当時の人々の世界観や信仰を表す貴重な資料となっています。

まとめ

玄室は、古代の人々が死者を弔うために築いた、単なる空間以上の意味を持つ場所です。その構造や内部の施設、装飾からは、当時の人々の死生観や信仰、技術を知ることができます。玄室は、歴史を研究する上で非常に重要な手がかりとなる場所です。

参考文献

江坂輝彌・芹沢長介・坂詰秀一編『新日本考古学小辞典』ニュー・サイエンス社 2005年 ISBN 4-8216-0511-2
田中琢・佐原真編『日本考古学事典』三省堂　2003年　ISBN 978-4-385-15835-8
永原慶二監修　石上英一他編集『岩波　日本史辞典』岩波書店　1999年ISBN 978-4-00-080093-8

関連項目

横穴式石室
* 羨道

もう一度検索