玉兎 (土産菓子)

「玉兎（たまうさぎ）」は、新潟県西蒲原郡弥彦村、弥彦神社周辺の菓子店で作られている、ウサギの形を模した半円形の落雁です。特徴的なのは、ピンと立った耳ではなく、寝かせた形であること。この愛らしい姿は、弥彦神社の神饌として祭神に捧げられるとともに、参拝客のお土産として、弥彦神社門前の土産物店で広く販売されています。

玉兎のルーツ

玉兎の起源は、文政4年(1821年)に石瀬村（現在の新潟市西蒲区）出身の本間貞作という人物が考案した麦饅頭にあると言われています。畳職人だった貞作が、副業として兎の形を模した麦饅頭を売り出したのが始まりとされています。当時は、麦饅頭をせいろで蒸して参拝者に提供していたと考えられています。

幕末に刊行された『越後土産』には、すでに「弥彦兎まんちう」という名前で紹介されており、当時から弥彦の名物として親しまれていたことが伺えます。江戸時代中期以降、庶民の間で寺社参詣が盛んになると、各地の門前では土産物菓子とその由来が作られるようになりました。玉兎もその一つとして、弥彦を訪れる人々に愛されてきたのです。

玉兎の進化

明治時代に入ると、製菓業者が餡入りの米粉菓子を「玉兎饅頭」として販売を開始しました。その後、地元の菓子業者が米粉菓子を粉菓子に改良し、小粒で愛らしい菓子として売り出したことが、現在の玉兎の原型になったと考えられています。さらに時代が進むにつれて、大きなサイズの玉兎や、耳だけを赤く着色したもの、餡入りのもの、最中製のもの、香煎兎、和三盆を使用したものなど、様々な材料や製法の玉兎が登場しました。

参拝の証

「玉兎」は、越後一の宮である弥彦神社に参拝した人々が「参拝の証明」として買い求めたと言われています。単なるお土産としてだけでなく、信仰の証としての意味合いも持っていたのです。

弥彦山のウサギ伝説

玉兎の由来には、弥彦山に棲んでいたウサギに関する伝説が深く関わっています。その昔、霊峰である弥彦山には多くのウサギが生息していましたが、彼らは毎日里に下りては、神領である田畑を荒らしていました。困り果てた里人たちの訴えを聞いた彌彦大神は、山中のウサギたちを集め、人間の大切な田畑を荒らすことのないように諭しました。ウサギたちは深く反省し、二度と里に下りて悪さをしないと誓いました。それ以来、田畑が荒らされることはなくなり、村人たちは大変喜びました。そして、大神様の前にかしこまってお諭しを聞いているウサギたちが丸く控えた姿を米の粉で形作り献上したところ、大神はこの菓子を喜んでお召し上がりになられ「良幸餅（うさちもち）」（弥彦村誌では「うさぎもち」）と名付けられたと言われています。

この伝説が、玉兎の愛らしい形と、弥彦神社との深い繋がりを物語っています。弥彦を訪れた際には、ぜひ玉兎を手に取り、その歴史と物語に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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