王子と乞食

『王子と乞食』：貧富の差と社会風刺の物語

マーク・トウェインによる児童文学作品『王子と乞食』は、1881年に発表された名作です。16世紀のイングランドを舞台に、国王エドワード6世と貧しい少年トム・キャンティの身分が入れ替わるという、奇想天外な冒険物語が展開されます。

物語は、1537年10月12日、未来の国王エドワードと、ロンドンの貧民街で生まれたトムという、対照的な境遇の二人の少年の誕生から始まります。エドワードは王子の身分ゆえ、贅沢な宮殿で何不自由ない生活を送りますが、宮廷生活の堅苦しさに息苦しさを感じていました。一方、トムは貧困の中で、飲んだくれの父親から虐待を受けながら、日々を必死に生き抜いています。

運命的な出会いは、ウェストミンスター宮殿の門前で行われます。エドワードはトムの姿に興味を示し、二人は互いの服装を交換するという、思いつきの行動に出ます。この交換によって、エドワードは貧しさ、トムは王室の生活をそれぞれ体験することになります。

エドワードは、貧民の生活を体験することで、それまで知らなかった社会の現実を目の当たりにし、衝撃を受けます。貧困に苦しむ人々の姿に心を痛め、王室の生活の虚しさも感じ始めます。一方、トムは宮廷生活の中で、宮廷の制度や貴族たちの傲慢さに疑問を感じ、表面的な輝きの裏にある空虚さを認識していきます。

物語は、ヘンリー8世の崩御という大きな出来事を迎えます。エドワードの身分を偽って王位を継ごうとするトムの行動は、周囲の者を困惑させます。真の王子の存在と、その王位継承をめぐる騒動は、物語に緊張感とスリリングな展開をもたらします。

登場人物：実在の人物と架空の人物

物語には、実在の人物と架空の人物が織り交ぜられています。

エドワード6世: ヘンリー8世の息子、イングランド王。高潔な心と、父への敬愛の念を持つ。
トム・キャンティ: 貧しい少年、エドワードと瓜二つ。貧しさの中、純粋な心を保つ。
マイルズ・ヘンドン: 没落貴族、エドワードを助ける。律儀で誠実な人物。
ハートフォード卿: エドワードの後見人、イングランドの大貴族。
ヘンリー8世: エドワードの父、イングランド国王。好色漢として知られる。
ジョン・キャンティ: トムの父親、飲んだくれで暴力的な人物。
トムの母親: 心優しく、夫の暴力にも耐える母親。
クレメンス神父: ヘンリー8世と対立した元ローマ教皇（クレメンス7世をモデルとしている）。
アンドリュー神父: 貧しいながらも人々に慈愛を示す聖職者。
ジェーン・グレイ: トムが宮廷で出会う姫君。

作品の特徴：対比と寓意

この作品は、対照的な人物や状況を対比させることで、貧富の差や社会の矛盾を浮き彫りにしています。例えば、エドワードとトム、クレメンス神父とアンドリュー神父、マイルズ・ヘンドンとハートフォード卿など、多くの対照的な人物が登場します。また、トムが生まれたオーファル・コートという場所の名前が、袋小路と宮廷を意味する「court」という単語を含んでいることにも、作者の意図が込められています。

『王子と乞食』は、単なる冒険物語としてだけでなく、社会風刺、道徳的な教訓、そして人間の心の機微を深く描いた作品として、長年にわたって読まれ続けています。数々の翻訳、舞台化、映画化がされており、その人気の高さが伺えます。近年の翻訳では、差別用語を避けるために、「乞食」を「こじき」または「少年」に置き換えられたり、本文表現が変更されているものもあります。

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