王育徳

王育徳：言語学者にして台湾独立運動の先駆者

王育徳（1924年1月30日 - 1985年9月9日）は、台湾出身の言語学者であり、同時に台湾独立運動家としても知られています。日本統治下の台湾で生まれ、東京帝国大学で学んだ後、台湾語や中国語諸言語の研究に情熱を注ぎました。また、国民党独裁政権下での台湾独立運動を積極的に展開し、その生涯を台湾の民主化とアイデンティティ確立に捧げました。

生涯

1924年、王育徳は台湾の台南市で生まれました。台北高校を卒業後、東京帝国大学に入学しますが、太平洋戦争の影響で一時帰国。戦後、台湾で教鞭を執りながら演劇活動を通じて社会批判を行いました。しかし、二・二八事件で兄が殺害されたことを契機に、1949年に香港へ脱出。その後、密航で日本へ渡り、東京大学に再入学しました。

日本での生活は困難を極め、在留資格を得るために苦労しました。警察に出頭した結果、国外退去を命じられますが、不服申立の訴訟を起こしました。この裁判中に、友人である邱永漢が王育徳をモデルにした小説を執筆し、これが証拠として提出された結果、法務大臣の特例措置により在留が許可されました。

東京大学で博士号を取得後、明治大学で教鞭を執り、商学部教授に就任。また、東京外国語大学でも台湾語講座を担当し、台湾語教育にも尽力しました。研究活動の傍ら、台湾青年社を結成し、雑誌『台湾青年』を創刊するなど、台湾の独立運動を積極的に支援しました。

1985年、心筋梗塞により61歳で急逝。その蔵書は東京外国語大学に寄贈され、「王育徳文庫」として保存されています。

研究活動

王育徳は、言語学者として台湾語や中国語の研究に多くの業績を残しました。特に、台湾語の語彙、音韻、歴史に関する研究は高く評価されています。

• - 『台湾語常用語彙』: 自費出版したこの本は、台湾語の語彙約5000語を収録した画期的な辞書でした。
• - 「中国五大方言の分裂年代の言語年代学的試探」: この論文では、言語年代学の手法を用いて中国五大方言間の距離を比較しました。
• - 『台湾語入門』『台湾語初級』: 台湾語学習者のための教科書を執筆し、台湾語教育に貢献しました。
• - 『台湾語音の歴史的研究』: 博士論文「閩音系研究」と論文「台湾語の記述的研究はどこまで進んだか」をまとめたもので、台湾語研究の重要な資料です。

政治活動

王育徳は、台湾独立運動の先駆者としても重要な役割を果たしました。国民党の独裁政権下で台湾の民主化を訴え、台湾人のアイデンティティ確立を目指しました。

• - 台湾青年社: 台湾独立運動の同志たちと結成した組織で、雑誌『台湾青年』を通じて台湾の現状を訴えました。
• - 『台湾 : 苦悶するその歴史』: 台湾の歴史を独立の立場から詳細に分析した著作で、台湾の現状と未来を考察しました。
• - 『昭和を生きた台湾青年』: 自身の回顧録を通じて、台湾独立運動の初期の状況を伝えました。

家族と記念

王育徳の妻は王雪梅、次女の王明理は台湾独立建国聯盟日本本部委員長を務め、父の意志を継いで活動しています。2018年には、出身地の台南市に王育徳記念館が開館し、その功績が永く称えられています。

主な著作

• - 『台湾語常用語彙』 (1957年)
• - 「中国五大方言の分裂年代の言語年代学的試探」(1960年)
• - 『台湾 : 苦悶するその歴史』 (1964年)
• - 『台湾語入門』 (1982年)
• - 『台湾語初級』 (1983年)
• - 『台湾海峡』 (1983年)
• - 『台湾語音の歴史的研究』 (1987年)
• - 『昭和を生きた台湾青年』 (2011年)
• - 『王育徳の台湾語講座』 (2012年)

王育徳は、言語学者としてだけでなく、台湾独立運動の先駆者として、台湾の歴史に名を刻む人物です。彼の残した業績と精神は、今日の台湾にも大きな影響を与え続けています。

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