玖島城

玖島城（くしまじょう）

長崎県大村市玖島に位置する玖島城は、大村湾に突き出した半島を利用して築かれた、平山城であり、海城としての特性も備えています。江戸時代には大村藩（2万7000石）の藩庁が置かれ、明治維新までの約270年間にわたり、藩の中心地として機能しました。現在はその多くが大村公園として整備され、多くの人々に親しまれています。

城郭の構造

玖島城は、本丸、二の丸、三の丸から構成される典型的な梯郭式（または連郭式）の縄張りを持っていました。中心である本丸は、周囲より約15メートルの高まりに築かれ、面積は約9,458平方メートル（約2,861坪）とほぼ方形をなしていました。この本丸は堅牢な石垣で囲まれ、西に虎口門、南に台所門、北に搦手門という三つの通用口が設けられていましたが、残念ながら天守は建てられませんでした。

本丸の南に位置する二の丸は、約29,921平方メートル（約9,051坪）の広さがありましたが、石垣は用いられておらず、中央には大規模な空堀が設けられて防御の要となっていました。

そして、大村湾に面した半島先端の広大な平地、約79,091平方メートル（約23,921坪）を占める三の丸は、藩主が使用する御座船などを収める「お船蔵」や、船に関わる役所などが置かれ、港湾機能を持つ曲輪でした。城の堀は全て海を利用しており、これは海城ならではの特徴です。特に、城の北側は遠浅の海だったため、敵が浅瀬を伝って侵入するのを防ぐ目的で、海中に石や杭を並べた「捨堀」が築かれていました。このような構造は、他ではあまり見られない玖島城特有の工夫と言われています（現在は北側は埋め立てられています）。

現在、本丸とその南側の堀に面した石垣が残されており、往時の面影を伝えています。また、1992年（平成4年）には、かつて存在した板敷櫓が復元され、城の景観の一部となっています。

沿革

この地を治めた大村氏は、鎌倉時代からこの地域に地頭として根ざしていました。戦国時代末期の領主であるキリシタン大名、大村純忠は、豊臣秀吉の九州征伐の際に嫡子である大村喜前（嘉前）を秀吉軍に参陣させることで、領地の支配を認められました。喜前も当初はキリシタンでしたが、後に日蓮宗に改宗しています。

1598年（慶長3年）、豊臣秀吉の死によって国内情勢が不安定化する懸念から、喜前は新たな居城として玖島城の築城に着手しました。そして、翌1599年（慶長4年）には早くも従来の居城であった三城城から本拠地を移しています。築城地の選定には、喜前が朝鮮出兵で参戦した慶長の役における順天城の戦い（1598年）で、三方を海に囲まれた順天城での戦闘経験が参考になったという説があります。

江戸時代が始まってからも、大村氏は引き続きこの地を治め、大村藩として明治維新まで存続しました。玖島城はその間、藩の政治を司る中心地として機能しました。

築城当初は、城の北側が大手口とされ、石垣は自然石を積み上げる野面積みで築かれていました。しかし、1614年（慶長19年）頃からは、2代藩主となる大村純頼によって、城の拡張と大規模な改修が行われます。この改修により、大手口は南側へと変更され、石の角や面を加工して隙間なく積み上げる打ち込み接ぎの工法で、高く反り返る美しい「扇の勾配」を持つ近世的な石垣へと生まれ変わりました。この際、築城の名手として知られる加藤清正が設計指導に関わったという説がありますが、清正は着工前の1611年に死去しており、直接的な関与は不明です。その後、幕末まで大規模な改築は行われませんでした。

明治維新後の1871年（明治4年）に廃城となり、城内の建物は取り壊されました。その後、1884年（明治17年）には本丸跡に、大村氏の歴代当主を祀る大村神社が創建されました。

現在の姿と文化財

玖島城の跡地は、現在「大村公園」として整備されています。園内には、国の天然記念物であるオオムラザクラをはじめ、菖蒲など四季折々の美しい花が咲き誇り、「日本さくら名所100選」にも選ばれるなど、市民の憩いの場となっています。本丸跡には、前述の大村神社が鎮座し、築城者である大村喜前の功績を讃える遺徳碑や、最後の藩主である大村純熈の像が建てられています。

また、玖島城に関連する文化財として、10代藩主大村純昌の別邸として造営された「旧梶山御殿」があります。現在は大村市が所有し、「大村市教育の館」として活用されています。三の丸にあった「お船蔵跡」も、藩主の御座船などが保管されていた場所として、長崎県の指定史跡となっています。

玖島城は、海城の特徴を備え、藩政を支えた歴史を今に伝える貴重な城郭遺構であり、美しい公園として多くの人々に親しまれています。

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