玩具修理者

『玩具修理者』：壊れたおもちゃと、壊れた記憶

小林泰三のデビュー作にして、第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した『玩具修理者』。この小説は、幼少期の不可解な出来事が、主人公女性の現在に深く影を落とす、衝撃的な物語です。喫茶店で語り合う男女の会話から物語は始まります。女性は、幼い頃、近所に住んでいたという「玩具修理者」の奇妙な存在について語り始めます。

玩具修理者は、子供たちの間では特別な存在でした。大人たちはその存在を知りませんでしたが、子供たちは壊れたおもちゃをこっそりと持ち込み、修理を依頼していました。人形や車のおもちゃはもちろん、複雑なゲームソフトまでも修理してしまう、不思議な能力を持つ人物でした。

ある日、女性は弟を背負って買い物の途中、猫を殺めてしまった少女に出会います。少女は、両親に叱られるのを恐れて、その猫の死体を玩具修理者に持っていくと言いました。その直後、女性は歩道橋から転落し、弟を亡くしてしまいます。

転落事故の後、女性は意識を失います。そして目を覚ますと、玩具修理者はワープロを修理していました。そのワープロの中には、猫と弟の遺体が使われており、猫の目にはモデルガンの弾が嵌め込まれていました。

場面は再び喫茶店に戻ります。会話相手が、実は女性の弟であることが明かされます。女性の顔の1/4は、事故の後、玩具修理者によって修理されましたが、その際に猫の目が埋め込まれていたのです。日中もサングラスを外せないのは、光に当たると猫の目であることが露呈してしまうためです。

物語のクライマックス、女性は衝撃的な事実を告白します。「私の左の瞳は、強い光を受けると細くなるのよ……猫の目だから。」この言葉は、読者に想像を絶する恐怖と、深い謎を与えます。

この物語は、単なるホラー小説ではありません。幼少期のトラウマ、家族の絆、そして人間の深層に潜む闇といった、様々なテーマを繊細に描き出しています。クトゥルー神話からの引用や、象徴的な描写も物語に深みを与え、読後感は長く心に刻まれるでしょう。

クトゥルー神話との関連性

『玩具修理者』には、クトゥルー神話からの言及が多く見られます。例えば、玩具修理者の名前「ようぐそうとほうとふ」は、クトゥルー神話の旧支配者「Yog-Sothoth（ヨグ＝ソトホース）」を思わせます。また、作者の他の作品、特に長編『ΑΩ』や短編『C市』にも「玩具修理者」が登場し、この物語の世界観の広がりを感じさせます。

映画、舞台化

『玩具修理者』は、2002年に映画化され、2004年には舞台化もされています。映画版は、原作のスプラッター描写を控え、ファンタジー色の強い作品に仕上がっているとのことです。当時としては珍しいHD1080/24Pでの撮影も話題を呼びました。舞台版も高い評価を得ており、原作小説とはまた違った魅力で、多くの観客を魅了しました。

まとめ

『玩具修理者』は、読者の心に深く刻まれる、傑作ホラー小説です。その独特の世界観、衝撃的な結末、そしてクトゥルー神話との繋がりは、多くの読者を魅了し続けています。映画や舞台化も成功しており、小説、映画、舞台、それぞれの魅力を楽しむことができます。 この作品は、現代ホラー小説の金字塔として、これからも多くの人に読み継がれていくことでしょう。

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