旧支配者

クトゥルフ神話における邪神たちの体系：旧支配者、外なる神、そしてその先へ

クトゥルフ神話は、H.P.ラヴクラフトの小説を起源とする、広大な架空世界です。その世界観は、後の作家たちによって拡張・解釈され、複雑かつ多様な神々や怪物たちが登場するようになりました。中でも、旧支配者、外なる神といった存在は、クトゥルフ神話の核となる要素です。本記事では、これらの存在の定義、分類、そしてそれらを取り巻く複雑な歴史を解説します。

旧支配者（グレート・オールド・ワンズ）：宇宙の支配者たち

旧支配者（Great Old Ones）は、ラヴクラフトの代表作『クトゥルフの呼び声』で初登場した存在です。当初は明確な善悪の区別なく描かれていましたが、後の作家、特にオーガスト・ダーレスによって、人類に敵対する邪神として体系化されました。ダーレスは、旧支配者を四大霊（火、水、地、風）の勢力に分類し、それぞれの勢力に属する邪神たちの関係性を構築しました。

旧支配者の起源や能力は、作家によって異なった解釈がなされています。ラヴクラフト自身も、その呼称を曖昧に使用しており、古の種族や怪物なども「オールド・ワンズ」と呼んでいました。例えば、『クトゥルフの呼び声』ではクトゥルフが旧支配者たちの「大祭司」と呼ばれていますが、『ダンウィッチの怪』ではクトゥルフは旧支配者の「縁者」とされています。このように、ラヴクラフト自身の記述に一貫性がないため、後の作家による設定の補完や解釈が不可欠なものとなっています。

旧支配者の分類：四大霊とその他の体系

ダーレス神話の大きな特徴の一つが、四大霊による分類です。水（クトゥルフ、ダゴンなど）、風（ハスター、ロイガーなど）、地（ヨグ＝ソトース、ツァトゥグァなど）、火（クトゥグア）といったように、旧支配者を自然の元素に対応づけることで、彼らの関係性や勢力図を分かりやすく表現しています。しかし、この分類は、クトゥルフの海底への封印や、ヨグ＝ソトースの遍在性など、設定上の矛盾点を指摘されることも多く、後続の作家によって様々な修正や代替案が提案されています。

リン・カーターは、ダーレスの分類をさらに発展させつつも、矛盾点を解消しようとする試みを行いました。また、「レッサー・オールド・ワン」という、旧支配者よりも格下の存在も提唱しています。他にも、クトゥルフ神話TRPGや、個々の作家による独自の分類法が存在し、旧支配者の体系は未だに流動的な状態にあります。

外なる神（ザ・アウター・ゴッズ）：上位の存在たち

外なる神（The Outer Gods）は、旧支配者よりも上位の存在とされるカテゴリです。主にアザトース、ヨグ＝ソトース、ナイアーラトテップといった、宇宙の根源に関わる存在が含まれます。外なる神は、旧支配者とは異なり、明確な目的や意志を持つとは限らず、その存在自体が混沌や非存在そのものを象徴しているとも解釈されます。外なる神は、クトゥルフ神話TRPGなどで広く用いられるようになり、クトゥルフ神話の世界観をより広大で不可解なものにしています。

その他の分類と主要な邪神たち

旧支配者、外なる神以外にも、様々なカテゴリや個々の邪神が存在します。例えば、クラーク・アシュトン・スミスによるゾティークの魔神、ジェームズ・アンビュールによるルー＝クトゥの魔神、そして日本人作家が創造したオリジナルの邪神などが挙げられます。

また、主要な邪神として、クトゥルフ、ヨグ＝ソトース、アザトース、ハスター、シュブ＝ニグラス、ツァトゥグァなどが知られています。これらの邪神たちは、それぞれ固有の能力や特徴を持ち、クトゥルフ神話の世界観を彩っています。ただし、これらの邪神の名前の発音や表記は、日本語訳において必ずしも統一されていません。

系譜：複雑な繋がり

クトゥルフ神話の邪神たちは、複雑な系譜で繋がっていると考えられています。ラヴクラフト、スミス、カーターといった作家によって異なる系譜が提示されており、これらの系譜は完全には一致していません。それぞれの系譜は、それぞれの作家の解釈や創作に基づいており、クトゥルフ神話の解釈の多様性を示しています。

結論：解釈と創造の連続

クトゥルフ神話の邪神たちは、その定義や分類が常に流動的であり、明確な体系は存在しません。それは、ラヴクラフト自身の曖昧な記述と、後続の作家たちによる解釈と創造が積み重ねられてきた結果です。この解釈の多様性こそが、クトゥルフ神話の大きな魅力であり、今後も様々な解釈が生まれ続けることでしょう。

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