球形の荒野

『球形の荒野』

松本清張の『球形の荒野』は、1960年から1961年にかけて『オール讀物』に連載され、1962年に文藝春秋新社から出版された長編の推理小説です。作品は、戦後の混沌とした時代背景におき、第二次世界大戦の影響を色濃く受けた人物の登場による波乱の家族の物語を描いています。特に、この小説はロマンティック・ミステリーと呼ばれ、さまざまな謎が主人公たちを取り巻く中、一人の男の影が大きな意味を持つことに焦点を当てています。

あらすじ

物語は昭和36年、奈良の唐招提寺を訪れた芦村節子が亡き叔父、野上顕一郎の筆跡に似た名前を芳名帳で見つけるところから始まります。別の名前であることに少し戸惑ったものの、懐かしさを感じた節子は、その情報を夫の亮一や叔父の未亡人である孝子に話します。彼らは顕一郎の死亡を確認していたため、真剣に取り合おうとはしませんでしたが、孝子の娘である久美子のボーイフレンド、添田彰一はこの出来事に興味を抱き、昔の事情を探り始めます。

しかし、捜査を進めるうちに、当時の外交官や関係者たちは冷淡に反応し、村尾課長は「ウィンストン・チャーチルに訊け」との謎めいた言葉を残します。やがて、ある公使館関係者が世田谷で被害を受けて遺体で発見されるという不気味な事件が起こり、久美子たちは次第にこの一連の事件が父の外交官時代の影響を受けていることに気づいていきます。

主な登場人物

• - 野上久美子: 23歳の若い女性で、古風な教育を受け、現在は役所に勤めている。
• - 添田彰一: R新聞政治部の記者で、久美子との関係を深めつつ事件を追う。
• - 野上孝子: 久美子の母親で、夫の死後も再婚せずにいる。
• - 芦村節子: 久美子の従姉で、父親の影響で古い寺や文化に興味を持つ。
• - 村尾芳生: 外務省で課長を務める外交官補だった男。

映画化とドラマ化

この小説は1975年に松竹によって映画化され、俳優陣には島田陽子や芦田伸介が名を連ね、映画のヒロインに島田陽子が起用されるなど高い評価を受けました。テレビドラマも数度にわたり制作され、特に1981年版では三船敏郎が出演し、視聴率も好調でした。それぞれ異なるキャストでリメイクされたドラマは、原作の持つ謎めいた魅力を多くの視聴者に届けてきました。

エピソード

著者である松本清張は、古い寺に書かれた落書きを見て人々の過去の思いに思いを馳せました。このエピソードは小説の一部に反映されています。また、作品の連載時に、洋画家の短くて謎めいた死が暗示されていましたが、単行本化の際にその部分が変更されています。

読者は登場人物たちの深い心理と複雑な人間関係を通じ、戦争の影響がどう彼らの人生に色を添えているのかを味わうことができます。清張の巧みな筆致は、読者を物語の奥深く引き込むことでしょう。

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