理外の理

概要

松本清張による短編小説『理外の理』は、1972年9月の『小説新潮』に初めて掲載され、翌1973年には短編集『巨人の磯』に収められ、新潮社から刊行されました。この作品は、現代の出版世界を舞台にしながら、江戸時代の伝承や心理に迫る物語が展開されます。

あらすじ

物語は、看板雑誌「Jー」の売れ行きが低迷する中、R社が新しい編集長である山根を迎え入れるところから始まります。山根は執筆陣の入れ替えを指示し、その中に須貝玄堂も含まれます。玄堂は自分の原稿がこれまで通りに掲載されることを望み、担当編集者の細井に何度も原稿を持ち込むのですが、なかなか受け入れてもらえません。

玄堂が持参した十二回目の原稿は、江戸麹町の浸透する‘縊鬼’の逸話と、使い捨てにされた見世物人形の恨みの霊の物語でした。編集部長の山根は、この原稿に玄堂の名前を載せることを拒否しますが、原稿の内容は編集部内で注目を集めます。「縊鬼」の話が世に存在するのか、人々はその真偽に興味を持ち始めました。

玄堂は、次に細井を訪れた際に淡々と「所詮はこれも時代の流れ」と告げ、細井を安心させます。そして、玄堂は「『縊鬼』の条件通りに実験してみませんか？」と提案します。これに対して山根は興味を示し、指定された場所である喰違見附で玄堂と実際に対面することを決意します。

エピソード

作品の中で触れられる著名なエピソードとして、「弥平太という、酒癖の悪い藩士」の物語があります。清張はこの逸話を通して、「これは現代にも通じる話だ」と示唆しています。過去の栄光に固執し、実力の低下を見落としている人々がいるという現代の状況に通じる内容です。

小説家の北村薫は、この作品について「江戸の巷説と現代の殺人事件が繋がる。このように『見立て殺人』を清張が描くと、こうなるのか」と評し、作家の円熟さを絶賛しています。このように、『理外の理』は過去と現代の心情を描き出し、両者を巧みに結びつけています。読者は、物語を通じて時代を超えた人間の心理を探ることができ、松本清張の独自の世界観に引き込まれます。

まとめ

『理外の理』は、松本清張の巧みなストーリーテリングが光る作品です。江戸と現代を織り交ぜた物語は、ただのエンターテインメントにとどまらず、深い思索を促す要素も含まれています。短編ながらも、読み応えのある内容で、清張の文学の真骨頂を堪能できる一作です。

もう一度検索