生存者バイアス

生存者バイアスとは

生存者バイアス（survivorship bias）とは、ある特定の選択過程を通過した「成功者」や「生き残り」のみに焦点を当て、それ以外の存在を無視することで生じる、認識の偏りです。このバイアスは、成功の要因を誤って解釈したり、リスクを過小評価したりする原因となります。

具体例

事故の生存者: 事故で生き残った人の話だけを聞いて、「その事故はそれほど危険ではなかった」と判断してしまうのは、生存者バイアスの典型的な例です。亡くなった人の話を聞くことはできないため、危険性の認識が歪められます。
企業の財務業績: 財務業績の調査では、倒産した企業は除外され、存続している企業のみが分析対象となるため、結果が楽観的に偏る可能性があります。市場全体の健全性を評価する際には、倒産した企業のデータも考慮に入れる必要があります。
難関大学の合格者: 特定の高校から難関大学への合格者が複数出た場合、その高校の教育レベルが高いと判断するのは早計です。合格者以外にも多くの生徒がおり、その成績を考慮に入れなければ正確な判断はできません。
成功者の物語: メディアで取り上げられる成功者の物語は、努力すれば誰でも成功できるという誤った認識を生み出す可能性があります。成功の陰には、同様に努力しても成功できなかった多くの人々が存在します。

生存者バイアスの影響

過度の楽観: 失敗例が無視されるため、物事を楽観的に捉えすぎてしまうことがあります。特に競争の激しい分野では、成功者の話だけを聞いていると、リスクを見誤る可能性があります。
誤った因果関係: 成功したグループの共通点を「成功の要因」と誤解してしまうことがあります。成功は必ずしも特定の要因によるものではなく、偶然や運の要素も大きく影響している可能性があります。
リスク評価の誤り: 成功例のみに焦点を当てると、リスクを過小評価してしまう可能性があります。実際の状況は、成功例だけでなく、失敗例も含めて総合的に評価する必要があります。

生存者バイアスへの対策

全体像の把握: 一部の成功例だけでなく、失敗例や成功に至らなかった事例も考慮に入れることで、偏りのない判断をすることができます。
統計的な分析: 統計的なデータに基づいた分析を行うことで、一部の事例に偏った解釈を避けることができます。
批判的な思考: 情報を鵜呑みにせず、多角的な視点から批判的に検討することで、バイアスの影響を小さくすることができます。

様々な分野における生存者バイアス

歴史: 歴史の記録は、勝利者や成功した組織に偏りがちです。現存する組織は、その成功のために、他の多くの失敗した組織よりも多く研究されています。
軍事: 第二次世界大戦中、統計学者エイブラハム・ウォールドは、帰還した爆撃機の損傷箇所を分析する際に、撃墜された爆撃機の情報が含まれていないことに気づき、生存者バイアスの重要性を指摘しました。
猫の落下: 猫が高い場所から落ちた場合、死亡した猫は獣医に連れて行かれる可能性が低いため、生存した猫のデータのみを分析すると、落下高度と負傷の関係性を誤って解釈する可能性があります。
熱帯の蔓性植物: 蔓性植物は、宿主の木に悪影響を与えると考えられていますが、調査では、蔓性植物が蔓延していない木をサンプルとして選択すると、早生樹の方が蔓延による影響が大きいという結果が得られます。


生存者バイアスは、私たちの判断や意思決定に大きな影響を与える可能性があります。このバイアスを理解し、意識的に注意することで、より客観的で正確な判断を下すことができるでしょう。

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