生物地球化学的循環

生物地球化学の分野において、地球上の物質が生物と無生物の間を絶えず移動し、形を変えながら繰り返し利用される一連のプロセスを「生物地球化学的循環」と呼びます。これは、特定の単一経路を指すのではなく、長い時間スケールで見ると、地球上のあらゆる物質が多様なルートを経て循環し、再利用されているという事実を総括的に表す言葉です。

循環の舞台：地球の領域

この壮大な物質循環は、地球を構成する主要な領域の間で展開されます。具体的には、生命活動が行われる生物圏、水が存在する水圏、岩石や地殻を含む岩石圏、そして気体が存在する大気圏です。また、土壌圏も重要な要素ですが、他の領域の一部として扱われることもあります。物質はこれらの領域内を移動したり、領域間を交換されたりすることで循環が成り立っています。

物質量の考え方とエネルギーとの違い

地球全体で見ると、厳密には物質量は一定ではありませんが、隕石集積やガス放出による変動は微量であり、生物地球化学的循環を議論する上では、地球上の物質総量はほぼ一定、つまり閉鎖系に近い状態であるとみなすことができます。このため、物質は失われることなく繰り返し利用されます。これに対し、エネルギーは太陽から供給され、熱として宇宙空間へ放出される開放系であり、この点で物質循環とは異なります。

物質の移動速度と蓄積

循環する物質が特定の場所に留まる期間は「滞留時間」と呼ばれ、その長さは様々です。数億年といった長い期間物質を蓄積する場所は「リザーバー」と呼ばれ、石炭鉱床のような非生物的な要素が多いです。一方、生物のように物質を比較的短期間しか保持しない場所は「交換プール」と呼ばれます。生物は炭素などの元素を短時間利用し、代謝を経て環境へ戻すため、交換プールとして機能します。物質はこれらのリザーバーや交換プールを移動することで循環します。

循環のモデル化

生物地球化学的循環を理解するために、「ボックス・モデル」という手法がよく用いられます。このモデルでは、地球の各領域や特定の蓄積場所を「ボックス」（リザーバー）として表現し、ボックス間の物質の移動量を「流束」（矢印）で示します。供給元となる流入を「供給（source）」、放出先への流出を「放出（sink）」として表し、各ボックスの物質量や流束を用いて循環を定量的に記述します。

主要な物質循環と研究の射程

生物地球化学的循環は、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、水など、生体活動に不可欠な個々の元素や化合物の視点から詳細に研究されています。これらの物質がたどる独自の経路を追跡することで、地球システムの働きが解明されます。研究の対象は、現在の循環プロセスだけでなく、過去の地球環境における物質循環の進化や、その知見に基づいた未来予測にも及んでいます。

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