生理食塩水

生理食塩水：生命維持と医療を支える溶液

生理食塩水は、人間の体液とほぼ同じ浸透圧を持つ、塩化ナトリウム（食塩）を水に溶かした溶液です。体液と浸透圧が近いことで、細胞への負担が少なく、医療現場で幅広く使用されています。

生理食塩水の組成と特性

一般的に、生理食塩水は0.9 w/v%の塩化ナトリウム水溶液として定義されています。これは、1リットルの水に9グラムの塩化ナトリウムを溶解させた状態です。この濃度は、人間の体液の浸透圧とほぼ等しく、細胞に浸透圧ショックを与えず、安全に使用できる濃度です。

ナトリウムイオン濃度は約154 mEq/L、浸透圧は約308 mOsm/Lです。これらの数値は、人間の体液の電解質バランスと浸透圧を維持するために重要な役割を果たしています。

生理食塩水の用途

生理食塩水の主な用途は次のとおりです。

輸液: 細胞外液の減少やナトリウム不足の際に、電解質バランスを回復させるための輸液として使用されます。
洗浄: 傷口や粘膜の洗浄に用いられ、組織への刺激を最小限に抑えます。鼻洗浄などにも用いられます。
希釈剤: 注射薬や麻酔薬を希釈するための溶液として使用されます。
その他: 豊胸手術の生理食塩水バッグ法など、医療現場以外にも様々な用途で使用されています。

生理食塩水と薬事法

日本では、2005年の薬事法改正により、生理食塩水は処方箋医薬品となりました。そのため、薬局では処方箋なしでの販売は認められていません。これは、安全な使用を確保するための措置です。

生理的食塩水

生理食塩水は、人間を対象とした場合の名称です。動物実験など、ヒト以外の生物を対象とする場合は「生理的食塩水」と呼ばれます。生物種によって体液の浸透圧は異なるため、使用する生物種に合わせて適切な濃度の生理的食塩水を調製する必要があります。例えば、哺乳類では0.85～0.9 w/v%程度、両生類などの冷血動物では0.6～0.7 w/v%程度が用いられます。

生理食塩水の利点

生理食塩水は、安価で調製が容易でありながら、高い安全性と有効性を持ち合わせています。体液とほぼ等張であるため、細胞への負担が少なく、様々な医療行為に安全に使用できる点が大きな利点です。

まとめ

生理食塩水は、医療現場において不可欠な溶液です。その安全性と簡便性から、輸液、洗浄、希釈剤など幅広い用途で使用され、生命維持や治療に貢献しています。薬事法の改正によって処方箋が必要となりましたが、その重要性は依然として高いと言えます。今後、さらに安全性の高い製剤の開発や、新たな用途の開発が期待されます。

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