田中正平

田中正平は、文久2年（1862年）に淡路島で生まれ、東京大学理学部物理学科を首席で卒業後、ドイツのベルリン大学へ留学し、ヘルムホルツの下で音響学と電磁気学を研究しました。帰国後、純正調オルガンを製作し、その革新的な音響技術は、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の前で演奏されるほど高く評価されました。このオルガンは「エンハルモニウム」と名付けられ、純正調音楽の研究における先駆的な業績として知られています。

田中は、単にオルガンの開発に留まらず、1890年にはドイツで、翌年には日本でそれぞれ博士号を取得するなど、その学術的な貢献も非常に大きいものでした。その後、鉄道技術者としてのキャリアをスタートさせ、日本鉄道会社に入社すると、鉄道試験所の所長として、画期的な連動装置を開発しました。この装置は、当時の鉄道技術界において大きな話題となり、彼の技術力を広く知らしめることになりました。

さらに、田中は音楽に対する情熱も持ち続けており、「美音会」を組織し、邦楽の演奏会を開催したり、多くの邦楽曲を採譜するなど、日本の音楽文化の発展にも尽力しました。晩年には、社団法人日本音楽協会の理事長や文部省の国民精神文化研究員を務め、音楽と技術の両面から日本の文化向上に貢献しました。また、論文「日本和声の基礎」を発表するなど、音楽理論の研究も深めました。

田中正平の業績は、音響学、物理学、鉄道技術、音楽の各分野において多岐にわたり、その多才ぶりは驚くべきものです。彼の生涯は、日本の科学技術と文化の発展に大きく貢献した、まさに「知の巨人」と呼ぶにふさわしいものでしょう。彼の功績は、今日においても多くの人々に影響を与え続けています。1945年にその生涯を閉じましたが、彼の遺した偉大な足跡は、後世に語り継がれていくことでしょう。

田中正平の主な業績

純正調オルガンの発明: 従来のオルガンとは異なる、より純正な音階を持つオルガンを開発し、音楽の可能性を広げました。
鉄道技術における革新的な連動装置の開発: 鉄道の安全運行に不可欠な連動装置を開発し、鉄道技術の発展に貢献しました。
日本音楽文化の振興: 「美音会」を組織し、邦楽の演奏会を開催したり、邦楽曲の採譜活動を通じて、日本の音楽文化の発展に尽力しました。
学術的な貢献: 音響学や物理学の研究で博士号を取得し、論文を発表するなど、学術界にも大きな足跡を残しました。

著作

『新式乗除速算表』
『新考案乗除筆算法 : 能率増進』
『日本和声の基礎』

受賞・栄典

1938年 - 朝日文化賞
1910年 - 勲四等瑞宝章

エピソード

大隈重信が、伊藤博文がドイツでヴィルヘルム2世に会見した際に、田中正平のことを尋ねられ、答えられなかったというエピソードを語っています。これは、当時のドイツにおいて田中の音楽研究が非常に高く評価されていたことを示しています。
東京音楽学校のプリングスハイム教授が作曲した日本和声について、日本的でないと反論したことがあります。このエピソードは、田中が日本の音楽文化に深い造詣を持っていたことを示唆しています。
妻は森鴎外の親戚にあたります。

門人

伊藤完夫
北村季晴

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