田中豊:日本近代橋梁史を彩る巨匠
田中豊(たなか ゆたか、
1888年1月29日 -
1964年8月27日)は、日本の近代橋梁史において、その名を燦然と輝かせる技術者です。
長野県長野市に生まれた田中は、当初は鉄道技術者としてキャリアをスタートさせました。
鉄道省時代には、設計の規格化に尽力するなど、その才能を早くから発揮していました。
橋梁技術者への転身
転機となったのは、
帝都復興院への異動でした。
関東大震災からの復興を担うこの機関で、田中は橋梁課長に抜擢されます。鉄道畑出身の彼にとって、これは予想外の配置転換でした。しかし、恩師である
広井勇の「落ちないようにやればよい」という激励を受け、橋梁技術者としての道を歩み始めます。
関東大震災からの復興と数々の名橋
関東大震災で甚大な被害を受けた東京と横浜では、合わせて783もの橋梁が損壊しました。復興事業の設計責任者となった田中は、この未曽有の危機に立ち向かいます。
隅田川に架かる永代橋や清洲橋など、数々の橋梁の設計を手がけ、当時の最新技術を積極的に導入しました。これらの橋は、単なる復旧に留まらず、日本の橋梁近代化の礎となる画期的なものでした。
また、復興局時代には、福田武雄を指導し、新潟の萬代橋の設計にも関わりました。鉄道技師としては、総武線
隅田川橋梁や東武伊勢崎線
隅田川橋梁の設計に携わるなど、橋梁技術者としての卓越した業績を数多く残しました。
後進の育成と土木学会田中賞
田中は、技術者としての活動と並行して、
東京大学教授として後進の育成にも力を注ぎました。多くの橋梁エンジニアを育て、日本の橋梁技術の発展に大きく貢献しました。
彼の功績を称え、計画・設計・施工・美観など、優れた特色を持つ橋梁に与えられる「
土木学会田中賞」が創設されました。この賞は、今もなお、日本の橋梁技術の進歩を促す原動力となっています。
田中豊の略歴
1888年(明治21年):長野県長野市に生まれる
1906年(
明治39年):静岡県立静岡中学校卒業
1909年(明治42年):第七高等学校卒業
1913年(
大正2年):東京帝国大学工科大学土木工学科卒業。鉄道院技術部勤務
1920年(大正9年):2年間の英国留学を命じられる。留学期間中、ドイツ、米国に転学
1923年(
大正12年):
帝都復興院技師を兼任
1924年(大正13年):帝都復興院廃止。内務省復興局技師
1925年(
大正14年):東京帝国大学教授兼任
1926年(大正15年):相生橋、永代橋が完成
1927年(
昭和2年):蔵前橋、駒形橋が完成
1928年(昭和3年):言問橋、清洲橋が完成
1929年(
昭和4年):萬代橋が完成。工学博士
1945年(昭和20年):土木学会会長
1948年(
昭和23年):
東京大学を定年退官
1961年(昭和36年):本州四国連絡橋調査委員会委員長
1964年(
昭和39年):逝去。享年76歳
1966年(昭和41年):土木学会が「田中賞」を創設
栄典
1944年(
昭和19年)3月7日 - 勲三等
瑞宝章
田中豊は、その生涯を通して、日本の橋梁技術の発展に多大な貢献をしました。彼の残した業績は、今もなお、多くの技術者たちに影響を与え続けています。
参考文献
中井祐 『近代日本の橋梁デザイン思想』 東京大学出版会、2005年(平成17年)。
『新永代橋の型式選定に就て』 土木建築工事画報、第3巻第3号、
1927年(
昭和2年)