田口玄一

田口玄一：品質工学の先駆者

田口玄一（1924年1月1日 - 2012年6月2日）は、日本の工学者であり、20世紀後半の製造業における品質管理の概念を大きく変革した人物です。特に、彼が創始した品質工学（タグチメソッド）は、製品やプロセスの設計段階から品質を組み込むという革新的なアプローチであり、世界中の企業に多大な影響を与えました。

タグチメソッドの概要

タグチメソッドは、製品の品質を向上させるだけでなく、開発コストの削減や市場投入までの時間短縮にも貢献する手法です。その核心は、製品やプロセスが外部からの影響（ノイズ）を受けても、性能が安定するように設計することにあります。田口は、この安定性をロバストネスと呼び、ロバストな設計を実現するための具体的な手法を開発しました。

タグチメソッドは、特に以下の点で従来の品質管理手法と異なります。

設計段階での品質重視: 製品の製造段階だけでなく、設計段階から品質を考慮することで、より根本的な品質改善を目指します。
直交表の活用: 効率的な実験計画法である直交表を用いることで、少ない実験回数で多くの要因の影響を評価し、最適な設計条件を見つけ出します。
損失関数の導入: 品質を金額で評価する損失関数を用いることで、品質改善の効果を定量的に評価し、経営判断に役立てます。

アメリカを蘇らせた男

1980年代、アメリカの製造業は日本の高品質な製品に押され、技術的に停滞していました。その状況を打破するために、タグチメソッドが導入され、大きな成果を上げました。フォード・モーターをはじめとする大手企業がタグチメソッドを採用し、品質向上とコスト削減を同時に実現したことで、アメリカの製造業は再び競争力を取り戻しました。この功績により、田口は「アメリカを蘇らせた男」と呼ばれるようになり、1997年には日本人として3人目のアメリカ自動車殿堂入りを果たしました。

統計学者との論争

田口は、統計学的な手法を品質管理に応用する際に、従来の統計学の考え方とは異なるアプローチを取りました。彼は、統計学で「偶然誤差」として扱われるばらつきを「必然誤差」と捉え、ロバストネスを設計することで、ばらつきの影響を最小限に抑えることを提唱しました。この考え方は、統計学者との間で激しい論争を引き起こしましたが、田口の主張は実務的な効果によって支持され、広く受け入れられるようになりました。

教育活動と晩年

田口は、青山学院大学教授として教鞭を執り、統計解析、実験計画法、品質管理などの科目を担当しました。彼は、学生との交流を大切にし、研究室やゼミ生を自宅に招待するなど、親睦を深めました。また、講義では学生自らが実践できるように、官能評価や身近なものの実験・評価を題材にした調査レポートを課すなど、実践的な教育を重視しました。

2012年6月2日、田口玄一は心不全のため88歳で死去しましたが、彼の残した功績は、品質工学の分野において今もなお大きな影響を与え続けています。

主な受賞・栄典

1960年：デミング賞本賞
1986年：国際技術協会ロックウェルメダル
1989年：藍綬褒章
1997年：アメリカ自動車殿堂入り

参考文献

田口玄一『タグチメソッドわが発想法: なぜ私がアメリカを蘇らせた男なのか』経済界、1999年。
* 田口伸「父, 田口玄一」『応用統計学』第42巻第3号、2013年、pp.189-195。

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