田村大五

田村 大五

田村 大五（たむら だいご、1935年〈昭和10年〉2月20日 - 2009年〈平成21年〉2月13日）は、日本の野球界において、多角的な視点からその歴史と深淵を描き続けたベースボールコラムニスト、スポーツジャーナリストです。新潟県柏崎市に生まれた彼の生涯は、日本のプロ野球の歩みと深く結びついていました。長年にわたり、球界の表舞台から舞台裏までを取材し、その知見に基づいた執筆活動は多くの野球ファンや関係者から高く評価されました。

経歴と人物

1935年（昭和10年）2月20日、新潟県柏崎市に生を受けた田村は、幼い頃、父親の仕事の関係で満洲国にて生活を送りました。この地での経験が、後の彼の人生観や視点に何らかの影響を与えた可能性も考えられます。

青春時代を経て、1954年（昭和29年）、田村はベースボール・マガジン社（BBM）に入社し、プロ野球の世界に足を踏み入れます。若き記者として、グラウンドで繰り広げられる熱戦や選手たちの人間ドラマを追いかけました。プロ野球の現場で、記者としての基礎を築きました。

1959年（昭和34年）には、BBMから報知新聞社へと活動の場を移します。報知新聞（現在のスポーツ報知）の記者として、特に西鉄ライオンズと読売ジャイアンツの担当を務め、精力的にプロ野球の最前線を取材しました。当時の熱狂的なプロ野球人気を背景に、選手や監督、チームの動向を克明に報じ、読者に届けました。その後、報知新聞社では運動部長や編集委員といった要職を歴任。プロ野球のみならず、日本のスポーツ界全般にわたる幅広い取材・報道活動を統括する立場を担い、その組織運営や方針決定にも深く関与しました。

1975年（昭和50年）、長嶋茂雄氏が読売ジャイアンツの第一次監督に就任したのと時を同じくして、田村は報知新聞社を退き、古巣であるBBMに復帰しました。BBMでは週刊ベースボール編集長に就任し、日本の野球専門誌の代表格である同誌の編集を指揮しました。誌面刷新や企画立案に尽力する傍ら、「大道文」（だいどう ぶん）という筆名を用い、季刊誌『ベースボールマガジン』に「プロ野球・謎とロマン」と題したコラムを連載します。この連載では、戦前・戦中期の職業野球で活躍した往年の名選手たちに光を当て、その波乱に満ちた人生やプレーの妙技を深い洞察力と豊かな筆致で描き出し、野球史研究における新たな地平を切り開きました。多くの野球ファン、特にオールドファンにとって、これらの評伝は貴重な記録であり、選手たちの記憶を現代に伝える役割を果たしました。

編集長退任後も、BBM編集局長、常務取締役、顧問といった役員を務めましたが、田村氏の情熱は常に「書くこと」にありました。特に、週刊ベースボール誌上に連載された「白球の視点」というコラムでは、その時々のプロ野球界の出来事に対し、長年の経験と深い知識に基づいた鋭い分析や温かい眼差しを向けた評論を展開し、多くの読者に愛されました。役員の立場にあっても、あくまで一人の野球記者として、精力的な筆活動を続けたのです。

2008年春、再びBBMを退社し、フリーランスとして活動を開始しました。長年の経験と知識を活かし、今後も執筆活動を続けることが期待されましたが、翌2009年（平成21年）2月13日、惜しくもこの世を去ります。胃潰瘍に伴う出血性ショックのため、73歳という年齢での急逝でした。彼の最後の筆となったのは、週刊ベースボール2009年2月23日号に掲載された『山内一弘を悼む』という追悼文でした。

エピソード

田村氏の豊かな人間性は、多くのエピソードによって彩られています。野球界の多くの人々と親交を深め、その温厚な人柄は広く慕われました。

豊田泰光氏との深い絆: 西鉄ライオンズの黄金時代を支えた名選手、豊田泰光氏とは、誕生日が近く同年齢だったことから、田村氏が西鉄担当記者だった頃から長年にわたる親交を深めました。知人や友人の葬儀にはほとんど参列しないことで知られていた豊田氏が、親しい友人であった田村氏の葬儀には自ら足を運び、弔いの言葉を読んだことは、二人の間の深い絆を示すエピソードとして知られています。

ライオンズ史研究への貢献: 2008年、埼玉西武ライオンズが球団創設30周年を記念して開催したイベント「ライオンズ・クラシック」の一環として企画された「ライオンズ史研究室」という講演会で、田村氏は講師の一人を務めました。この講演では、西鉄ライオンズ時代から現在に至るまでの球団の歴史や秘話を披露し、集まったファンに深い感動と新たな発見を与えました。野球史研究家の綱島理友氏とともに登壇し、その豊富な知識と語り口で聴衆を魅了しました。

主な著書

田村大五氏、あるいは筆名「大道文」名義で執筆・監修された主な著書には以下のようなものがあります。これらの著作は、プロ野球の歴史や選手たちの人間像を深く掘り下げたものが多く、現在でも野球史を研究する上で重要な文献とされています。

『プロ野球選手・謎とロマン』（全2冊、大道名義、恒文社）
『白球世界を征く』（大道名義、恒文社）
『大下弘日記 : 球道徒然草』（監修、大道名義、ベースボールマガジン社）
『白球の視点』（ベースボールマガジン社）
『プロ野球人国記』（初版、第2版は大道名義、最新版は著者名なしだが田村執筆の記載あり。初版は恒文社、他はベースボールマガジン社）
『昭和の魔術師―宿敵 三原脩・水原茂の知謀と謀略』（ベースボールマガジン社）
* 『巨人軍5000勝の記憶』（一部記事執筆、読売新聞社、ベースボールマガジン社、2007年）

これらの著作は、特に筆名「大道文」での著書に代表されるように、戦前野球への深い愛情と知識が反映されており、往年のプロ野球の姿を伝える貴重な資料となっています。

田村大五氏は、記者として、編集者として、そして文筆家として、多角的な視点から日本のプロ野球を見つめ、その魅力を伝え続けました。彼の遺した文章や著作は、今も多くの野球ファンや研究者にとって貴重な財産となっています。彼の仕事は、単なる記録に留まらず、野球という文化への深い理解と愛情に満ちたものでした。

もう一度検索