田辺茂一

田辺茂一について

田辺茂一（たなべ もいち、1905年2月12日 - 1981年12月11日）は、東京出身の著名な出版事業家で、紀伊國屋書店の創業者として知られています。彼の人生は、出版業界をリードし、文化事業に多大な影響を与えたことで彩られています。

生い立ちと教育

田辺は東京市新宿に生まれ、紀州和歌山出身の家系に育ちました。彼の書店経営への夢は、1915年の大正天皇即位大典の日に父親と共に訪れた丸善で洋書に強く魅了されたことに始まります。その後、高千穂小学校を卒業し、慶應義塾大学に進学しました。1926年3月に慶応義塾高等部を卒業した後、1927年1月に紀伊國屋書店を創業しました。

紀伊國屋書店の成長

当初は二階建ての店舗で始まった紀伊國屋書店は、戦後の混乱期に直面しました。田辺は一時的に廃業も考えましたが、友人の角川源義の励ましを受け、1946年に法人化され、株式会社紀伊國屋書店として新たに歩み始めました。田辺は同社の社長として、1947年に新しい本店を開店し、経営を安定させました。

1950年代には、松原治を経営陣に迎え入れ、円滑な経営を確立しました。その後、田辺は経営からある程度距離を置き、銀座での社交生活を楽しむようになり、華々しい女性遍歴で「夜の市長」との異名を持つようになります。

文化事業への貢献

田辺は紀伊國屋書店の成長だけでなく、文化事業にも尽力しました。1964年には新社屋を設立し、演劇ホールを併設しました。さらに、1966年には紀伊國屋演劇賞を創設し、日本の演劇界に大きな足跡を残しました。田辺は書店内に自分好みの美少女を店員として雇うなど、若者を惹きつける工夫をしていました。

また、田辺は数多くの著書を著し、自らの人生経験や文化観を文章に表しました。夏目漱石の二男である夏目伸六との交流もあり、彼が所有する小料理屋によく顔を出していました。

市民活動と交友関係

田辺は市民活動にも積極的で、新宿副都心のPR委員会の初代委員長を務め、新宿音楽祭でも大会会長を務めました。さらに、映画監督の大島渚が制作した『新宿泥棒日記』に本人役で出演するなど、自身のPR活動も行っています。

家族とのつながりも大切にし、長男はNHKアナウンサーを経て、紀伊國屋書店へと入社しました。私生活では、交友関係を重視し、落語家の立川談志との関係も深く、談志へ自身の遺品が引き継がれました。

晩年と遺産

1981年にはフランス芸術文化勲章を受章しましたが、その年の12月に悪性リンパ腫で亡くなりました。彼の死後も影響は色濃く残り、新宿地域の文壇や文化シーンに関する研究や展示も行われています。

田辺茂一は、出版業界に多大な貢献をし続けた文化人であり、今もその名は多くの人々に語り継がれています。

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