甲子園歴史館

阪神甲子園球場の歴史を深く知ることができる「甲子園歴史館」は、2010年 3月14日に開館しました。この博物館は、阪神電気鉄道が運営し、日本高等学校野球連盟や朝日・毎日新聞社、そして阪神タイガースの協力のもと、球場そのものに加え、ここで繰り広げられてきた高校野球、プロ野球（阪神タイガース）、大学アメリカンフットボール「毎日甲子園ボウル」の豊かな歴史と関連資料を紹介しています。

沿革と拡張

歴史館の前身は、1985年にタイガース球団創設50周年を記念してライトスタンド下に設けられた「阪神タイガース史料館」でした。ここはタイガース関連資料を無料で公開していましたが、2007年から始まった球場の大規模改修工事に伴い、2008年に閉館しました。改修完了後の2010年、新たな形で誕生したのが現在の甲子園歴史館です。展示スペースは大幅に拡大され、史料館時代の約3倍にあたる約1,200m²となりました。これにより、タイガースだけでなく、春夏高校野球や甲子園ボウルの歴史も網羅的に展示できるようになりました。当初は関係者からの資料収集に苦労もあったようですが、出場経験のある選手や学校からの寄贈、特別な記録達成時の記念品提供などにより、収蔵品は年々増加し、開館当初の約2,000点から2020年には4,000点を超えました。

しかし、収蔵品の増加に対して展示スペースが手狭になったため、展示できる資料が限られるという課題が生じました。この解決策として、また「365日にぎわいのあるボールパークエリアの形成」を目指す阪神電鉄の計画の一環として、球場南側の市有地に複合施設「甲子園プラス」を建設し、歴史館機能の一部を拡張移転することが決定しました。2022年 3月3日、「甲子園プラス」の開業と同時に歴史館の拡張部分「PLUSエリア」がオープン。従来の球場内展示は「球場エリア」と名付けられ、両エリアは屋根付きの連絡デッキで結ばれました。この拡張により、歴史館全体の展示スペースは約1,500m²となり、展示能力が大きく向上しました。拡張作業のため、歴史館は2021年9月から一時休館していました。

展示内容

現在の甲子園歴史館は、「球場エリア」と「PLUSエリア」の二つのゾーンで構成されています。

球場エリアでは、主に高校野球と甲子園球場自体の歴史が紹介されています。入口付近には「甲子園への道」として古い球場や応援団の写真が展示され、高校野球の雰囲気を演出しています。「はじまりの一球」では、第1回全国中等学校優勝野球大会で使用されたとされるボールを展示し、高校野球の黎明期を辿ります。全国の加盟校数と同じ数の白球が並ぶ「ボールウォール4253」は圧巻です。「メモリアルコレクション」では、高校野球の歴史を貴重な資料と共に時代順に紹介し、「甲子園の名将たち」コーナーも設けられています。「名勝負ギャラリー」では、春夏大会の優勝旗や、歴史に残る名場面を振り返ることができます。NHKや朝日放送所蔵の映像を大型モニターで上映する「プレイバックシアター」では、過去の名勝負や感動のシーンを臨場感あふれるサウンドで体感できます。また、甲子園に縁深い野球漫画を紹介する「まんがと甲子園」コーナーは、拡張を機に立体的な展示にリニューアルされました。大学アメフト「甲子園ボウル」のコーナーもあり、歴代ユニフォームなどが展示されています。「甲子園ヒストリー」では、球場開場以来の歴史を年表やエピソードと共に紹介しています。球場エリアの特長的な展示として、バックスクリーン裏の通路を利用した「バックスクリーンウォーク」があり、「タイガース背番号ヒストリー」や「高校野球ユニホームギャラリー」などを見ることができます。また、特定の時間帯にはバックスクリーン真下のスペースから球場全体を見渡せる「バックスクリーンビュー」が開放され、野球の聖地の景色を間近に感じられます。

一方、PLUSエリアは、甲子園プラスの2階に位置し、主に阪神タイガース関連の展示や体験コンテンツが集められています。「ミュージアムゲート」では、迫力ある映像が来館者を迎えます。「歓喜のビクトリー」では、タイガースのリーグ優勝や日本一の軌跡に焦点を当て、記念のトロフィーやペナント、当時の選手の資料などが展示されています。「栄光のヒストリー」では、球団創設から現在に至るまでの歴史を時代ごとに紹介し、「ヒーロー列伝」では、タイガースのレジェンド選手の功績やゆかりの品々を見ることができます。彼らの現役時代の映像もモニターで視聴可能です。映像コーナー「名場面シアター」では、タイガースの名試合や春季キャンプの練習風景などを、選択して視聴できます。「体験!タッチスタジアム」は、児童でも楽しめるように工夫された体験型ゾーンで、選手が実際に使った用具に触れたり、甲子園にまつわるクイズに挑戦したりできます。人気の「ドラフト体験コーナー」や、通常立ち入れない場所からの映像を体験できる「VRコーナー」もここに集約されました。通路を利用した「タイガースロード」では、背番号や名言、ユニフォームの歴史を紹介しています。「企画展コーナー」では、年間を通じて様々なテーマで企画展が開催され、季節ごとに異なる展示を楽しむことができます。

施設利用案内

施設利用に関しては、開館時間は季節によって異なり、3月～10月は18時まで、11月～2月は17時までです（入館は閉館30分前まで）。休館日は年末年始や一部の月曜日、メンテナンス期間などがあります。料金体系は拡張後に改定されており、入館料は「おとな」（高校生を除く）900円、高校生700円、こども（4歳以上中学生まで）500円です（団体割引、ファンクラブ割引など各種割引制度あり）。入場券はQRコード式で、自動改札機のようなゲートで読み取ります。当日券には記録写真がランダムに印刷される特典もあります。Webketで前売入場券（電子チケット）も購入可能です。

歴史館への入館料とは別に、有料のスタジアムツアーやAR KOSHIEN Experienceも提供されています。スタジアムツアーでは、グラウンド（人工芝部分）、ベンチ、室内練習場、ロッカールームなど、普段立ち入ることのできない球場内部を見学できます。特定のコースではタイガースOBが同行したり、練習見学ができたりします。また、オフシーズンにはマウンドからの記念投球イベントなども開催されています。AR KOSHIEN Experienceは、AR技術を活用したタブレットを使って、バーチャルに球場体験ができるサービスです。

付帯施設・組織

歴史館に併設して「スタジアムショップ」があり、タイガースグッズや高校野球グッズ、歴史館オリジナル商品などを販売しています。また、「甲子園歴史館倶楽部」という会員組織があり、年会費を支払うことで入館料やスタジアムツアーなどの割引、会員限定イベントへの招待といった特典を受けることができます。

その他

運営面では、阪神電気鉄道をはじめとする関係機関や有識者が参加する運営会議が定期的に開催されています。館内の椅子が旧貴賓室のものだったり、バックスクリーンウォークで水分補給スペースが設けられていたりするなど、細部にもこだわりが見られます。写真撮影は原則可能ですが、フラッシュや動画撮影、ブログ・SNS公開に制限がある場所もあります。鉄道会社が運営する博物館でありながら、鉄道とは無関係な点もユニークです。過去には、高校野球で活躍した清原和博氏関連の展示が一時取りやめになった後、再開されたエピソードや、台湾プロ野球との交流展示、スタッフとしてお笑い芸人の代走みつくに氏がいることなども知られています。甲子園歴史館は、野球ファンにとって聖地の歴史と感動を体感できる特別な場所と言えるでしょう。

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